「とりあえず、村の中に入ったら散開して探した方がいいだろう。ジュノンは真っ直ぐ、ロニーは左方に。私は右方を探す」
先ほど見上げた村の前に立って、ゆらゆらと村全体を覆う白い靄を見つめる。シャーレが見もせずに言った言葉に、ジュノンもロニテスも頷きを返す。
「先ほどかけた術は幻覚帯の中に入ってから機能する。ジュノンにはその間気配を追うのも並行してやってもらう。場所を特定できたらライフのピアスで報告しろ、ロニーと私はジュノンから指示が入り次第急行」
「了解、できるよな? ジュノン」
「うん」
ジュノンは存外しっかりした声が出たことに驚いた。緊急の場面だというのに、どこか落ち着いている自分がいる。先ほどまでの感情の高まりがうそのようだった。
「……行くぞ」
シャーレの短い掛け声で、三人は村に入った。
一歩足を踏み出せば、立ちこめる白い靄がたちまち体にまとわりつく。肌がちりちりとして、何かが侵入してこようとする気配を感じる。それが幻覚作用かわからなかったが、それでもはっきり保っている意識に、シャーレの術が効力を発揮したことを悟った。
ジュノンは指示通り、まっすぐに駆けた。視界の端でロニテスの青髪とシャーレの黒髪が自分から離れていったのがわかる。神経をとがらせて、まとわりついてくる気配を探る。
(……やっぱりこれは地界力だ)
力のただなかに侵入して、確信を得る。ジュノンはピアスに向かって叫んだ。
「シャーレ! ロニー! 限界解除は地界力だよ!」
『了解』
『場所特定も早くしろよ』
途端に響く声に、ライフガントルの魔具の利便性を痛感する。シャーレの物言いにこんな時でも彼女は彼女らしいなとひっそりと思った。いや、こんな時だからこそ彼女らしいのか。
(早く見つけなきゃ)
思って、力強く前を見据えた。今のところ、幻覚に侵された村人による妨害はない。むしろ、強烈な限界解除のせいで他の気配を感じることが困難だった。もう、シャーレやロニテスがどこまで行ってしまったかも把握できない。
「っ!!」
白い靄に視界がチカチカとして、一度強く目をこすった時だった。
突然四方からまがまがしい気配を感じて、慌ててかがんで転がった。それまで自分がいたところにぶすぶすと四本の武器が突き刺さる。
「誰――」
聞こうとして、聞かずとも分かった。素早く身をかわしたジュノンをじろりと睨みつけるのは、感情がそげ落ちた顔をした四人の男。質素な服はフォルトと同じように煤汚れていて、明らかに鉱山作業をしていたことがうかがえる。十中八九、彼らは幻覚に侵された村人だった。
(にしては、統一された動きをしてくる……)
のそりと武器――槍や剣など――を抜いた男たちが、じりじりとジュノンとの間を縮めていく。
(シャーレならこんなときどうするかな……あっけなくこの人たちを殺してしまうだろうか)
なんとなく、パーティ内で一番腕の立つシャーレの行動を予想する。それとも、気絶するにとどめてさっさと逃げてしまうだろうか。
(なんにせよ)
一番大事なのは限界解除を起こしているメディアスを特定することだ。三界力の感じから、向き合っている四人は操られている方だとわかる。ならばとるべき行動は一つ。
「逃げるが勝ちってね!」
瞬間、ジュノンは自身の剣を抜いた。もうほとんど目の前まで迫っている四人に、するすると避けながら鍔(つば)の部分を打ちつける。力強く打ち込めば、四人は力を失くして倒れ込む。致命傷にはならないが、足止めには十分な攻撃だった。
それからジュノンは素早く身をひるがえし、進んでいた方向へ再び走り出す。次第に靄が取れかかっているのがわかった。術の効力はあとどれくらいだろうか。もしジュノンが幻覚にかかっていないのならば、それは力の中心地……つまり限界解除のメディアスのもとに辿りついたということだった。
(いるかっ!?)
す、と自身の気配を消して、やや足音を気にしながらジュノンは靄の晴れた部分に突入した。途端に、ちりちりとした感覚が消え失せる。一度頬をつねり痛みがあることを確認してから、ジュノンは確かに幻覚帯から抜けたことを悟った。
見渡せる範囲に、限界解除になっているらしいメディアスは見つからない。念には念を入れて建物の陰に隠れながら中心部まで移動すると、感じ覚えのある気配を捕らえた。
独特の刺すような魔界力の気配。それは、シャーレのものだ。
(シャーレも到着してたのか……でも報告がないってことは、ここにメディアスはいなかったのかな?)
なんとなく、そのまま気配を消したまま近づいて、そしてそのことを後悔した。
「――どうして」
声が聞こえた。シャーレのものだ。
「どうして、お前が、ここにいる」
珍しくこわばった声に、ジュノンは一瞬動きを止めた。途端に、先ほどからずっと感じている強烈な地界力の気配を感じる。例の限界解除になっているメディアスだ。シャーレのそばにいるようだった。
「まさか、あれは……あれはやはり」
「あは、想像通りだよぉ、きつねえ」
地界力のメディアスは幼い声をしていた。ジュノンの位置からでは姿を確認することはできないが、甘い声の感じや間延びした言葉遣いで、なんとなくそう悟る。言葉を紡ぐシャーレの声は震えていた。
「安心して? これは主様から凛たちへのご褒美なの。いっぱいいっぱい殺したから、きつねえに会いたいってわがままを言ったの。そしたらねぇ? 主様、きつねえがここに向かってるって教えてくれたの。凛、きつねえも主様もだあいすき」
甘い声の主はくすくすと笑いながら言った。
(知り合い……?)
きつねえ、と呼ばれているらしいシャーレが、雰囲気で苦々しい顔をしたのがわかった。彼女が感情を表面に出すのは珍しい。つまりは、良い感情であれ悪い感情であれ、それだけかかわりのある人間ということなのだろう。そのことが意外だった。
「……お前の……お前たちの目的は何なんだ」
「目的? んー、なんだろぉねえ?」
瞬間、ぞわりと得体のしれない何かがジュノンの背中を駆け巡った。何かの、誰かの強烈な力を感じる。その力に押しつぶされて、シャーレの気配も地界力のメディアスの気配も消えてしまった。もしかしたら、限界解除になっているということ自体が幻覚で、この気配が件のメディアスの真の力なのかもしれなかった。
思って、硬直した体のまま不覚にもジュノンは物音を立てた。いくら気配を消していても、聡明で優秀なシャーレが聞き逃すはずのない音。案の定、彼女は押し黙りジュノンを見つけたようだった。
「……いるんだろう、出てくればいい」
シャーレの声はもう強張ってはいなかった。けれどその声色に覆せない冷淡さを感じて、背筋が凍る。強烈に感じた強大な力はいつの間にかすっと消え去って、一瞬前の状態に戻っていた。それこそ幻覚でも見たかのような気分で、ジュノンは首をかしげた。
「……シャーレ」
それから一歩を踏み出した。隠れていた建物の陰から抜け出て、シャーレともう一人の姿を確認する。そこにいたのは、声の調子通りの幼い少女だった。
少女は緑がかった黒髪をお団子にして、頭の上の方にまとめていた。お団子をまとめている淡いピンクの布が、少女らしさを感じさせる。メディウムでは見かけない民族衣装を着ていて、それはいつか文献で見たメリディエスの小民族の衣装だった。感情の見えない大きな瞳は深い緑色をしていて、現れたジュノンをつまらなそうに見つめている。その整った顔の左半分は、烏を象った面で覆い隠されていた。
(あの面……似たようなものを見た気が……)
瞬間、それが何に似ていたのかわからなくて、ジュノンは内心首をかしげる。シャーレは現れたジュノンの姿に小さく溜息をついて、それから少女に向き直った。
「……とりあえず、この村にかけた幻覚を解いてもらおうか。私に会うことが目的だったのなら、もう目的は果たされたはずだが?」
「うーん、そうだねぇ。でも凛としては、きつねえと遊んでから帰りたいっていうか」
シャーレに向ける少女の顔は、ジュノンが見た無表情なものではなかった。喜色を存分にあらわした表情に、その変化に、一瞬ぞっとする。その時、いったいどこでその面を見たのか思い出した。
「あ……狼面、の……」
呟きは二人にも届いた。瞬間凍りついた気配に、ジュノンは体を強張らせる。
「……なぁに? ろうにいのこと知ってるの?」
少女はぐるりとジュノンの方に顔を向け、にたりと気味の悪い笑みで問うた。ろうにい、というのがあの狼面の少年のことだと気がついて、頷くよりも先に体が反応する。
「おまえっ……あいつの……!!」
ジュノンにはもうシャーレのことなど目に入っていなかった。少女が狼面の少年を知っている、その事実だけで、彼女が何者か理解できた。
つまりは、あの、ダキリアを襲った少年の、
――仲間。
考えるより早く動いて、ジュノンはシャーレなどお構いなしに斬撃を繰り出した。魔界力をこめて振った剣から、衝撃波が出ていく。土煙で少女もシャーレも見えなくなって、ジュノンは自身の影に手を置いた。
「……はっ」
軽く息をはいて魔界力を流し込み、自身の影の一部を取り出す。影はまるで粘土のように伸びて、切り取られた。欠けた部分はすぐさま修復されたが、手にした影はぐるぐると渦を巻く。それをジュノンは思い切り土煙に投げつけた。
投げつけられた影の弾は地にあたると同時に辺り一帯に闇をもたらした。ぶわりと広がった闇に触れた途端、巻きあがっていた煙が色を失くして動きを止める。その直後、ガラガラと崩れ去った。
「それだけぇ?」
けれど土煙だったものが崩れ去ったその場所に、少女はいなかった。背後から独特の甘い声が聞こえて、ジュノンはとっさに身を捻じる。直後、ジュノンの脇腹を小さな刃物が抉った。
「っ!!!」
強烈な痛みに声にならない悲鳴を上げて、とっさに脇腹を押える。どくどくと信じられないくらいに血が流れ、その度に力が失われていく気がした。
「決めたぁ、きつねえ、この子殺してもいーい?」
少女はひどく楽しげに言う。手にした刃物――それも文献で見たことがあった。確か、同じメリディエスの小民族が用いる武器で、クナイ、とか言ったはずだ――から滴り落ちるジュノンの血をおいしそうに舐めとる。少女の少女らしい容姿も相まって、その光景は異様だった。
「ひっ」
脇腹の傷が酷く、力の入らなくなった膝ががたがたと笑って、それから情けなく崩れ落ちた。うつ伏せになったジュノンの首筋に少女はクナイを押しあてて、すう、と優しくひいていく。薄皮は簡単に切れて、首筋に鮮血の筋が走った。
「っやめろ!!」
なんだかよくわからない、もやもやとした感情で意識も朦朧となってきたとき、不意に頭上でシャーレが悲痛な声を上げて、そのおかげで少女の手はぴたりと止まる。いたぶり方もやめ方も手慣れている様子に、自分よりも幼い体で、一体何人の命を奪ってきたのだろうとジュノンはぼんやり考える。それは意味のない思考だった。
「どうして? きつねえ。だってこの子、凛にいきなり攻撃してきたんだよぉ? 正当防衛だよね、ねえ、凛は悪くないよねぇ?」
「……」
少女の言葉に、シャーレはぐっと押し黙った。彼女が近づいてくるのがジュノンには気配でわかった。意識が朦朧として、もうほとんど何も聞こえない。
「……そいつは――だ。殺すことはできないし、できたとしても、主の意向に反する」
だからジュノンは、シャーレが何を言ったのかわからなかった。何かを言ったのは察したのだが、その内容が聞き取れない。けれどその言葉は聞かなければならなかったような気がして、うつろな瞳でシャーレを見上げる。血がどくどくと、流れつづけていた。
「安心しろ、お前は死なない。死ねない。……だから、安心して気絶しろ」
そしてできれば忘れてしまえ。
シャーレの口がそう動いた気がして、ジュノンは意味なく安堵した。瞬間、視力さえも機能しなくなって、ジュノンは深い深い闇の中へと落ちていった。
ジュノン達が村の内部へ侵入した直後、ライフガントルは立てないシューを背負って、彼が自らの幻術を用いるのを感じていた。村全体を覆う程の幻覚は、相当の規模だ。いくらシューが守人内でも強力な幻術の使い手だったとして、元気なときだって相殺できるか微妙なところだった。
けれどシューはやると言った。何もせずに死ぬより、誰かの役に立って死にたいと、そう言った。
結局問題なのは自分の方なのだと、ライフガントルはよくわかっていた。シューがいなくなって辛くなるのは自分自身で、それが嫌だから生きてほしいと願う。それは自身の欲望に忠実に動くことと、どれほどの違いがあるだろうか。
「ライフ……とか言ったわね、あなた」
ふと、背後から声がかかって、ライフガントルは力なく振り返る。シューは変わらず真剣な顔で自らの力を練りだしているようで、大量の汗をかきながら視線を寸分もずらさない。
「……あんたは」
「アンナよ。天界力のメディアス。治癒術には自信ある」
アンナはぶっきらぼうに言うと、ライフガントルの了承も得ずに彼の横に立った。それからシューにそっと手を触れて、力を注ぎはじめる。
「まさか……」
「……あたしは戦うことに向いてないの。だから、あの泣き虫君と一緒に村の中に入っていくなんてできない。でもあたしだって役に立ちたい! 村の人たちを助けたいもんっ……」
アンナはシューに治癒術をかけ続けながら、絞り出したような声で言った。低い、低い声だった。
「……わかった。すまない」
「あんたのためじゃないわよ。村の人のためなんだから」
それきり、アンナもライフガントルも口を閉じた。
シューはほとんど気力だけで相殺できるだけの力を練り続け、アンナはシューが少しでも楽になるように治癒術をかけ続け、ライフガントルはシューに自身の魔力を与え続けた。
その間、一分はとても長かった。全員が大量の汗をかいて、シューなんかは息も絶え絶えに、ただひたすら「できること」に集中していた。
そして迎える、三分後。
村に入ってすぐ、ジュノンから「相手は地界力」という旨の連絡があって以来、誰からも何の連絡も入らない。内部で若干力が揺らめいた気はしたが、相変わらず幻覚作用は村全体を覆っていて、しかもその威力は少しずつ増えていっているようでもあった。このまま放置したら、やがて村だけでなく、フォルトの見張り小屋も、鉱山すらも飲み込むだろう。
しかしシューは間に会った。びっしりと汗を浮かべながら、シューは両手を天に掲げる。背中の上で彼が大きく息を吸ったのを、ライフガントルは感じていた。
「――」
静かな歌声が流れた。一瞬誰の声かわからなくて、頭上で聞こえてくるその音に、声の主がシューであることを思い出す。歌はやさしい旋律で、村を囲っていく。
ライフガントルには、守人一族特有の言語で歌われるその詩の意味は理解できなかった。けれど、あまりにも優しくて、切なくて、悲しい声に、ふとこみ上げてくるものを感じる。ぼんやりとした頭で横を見れば、アンナが静かに涙を流していた。
シューが歌っているその間、確かに時は止まっていた。白い靄が歌声に押されて収束していくのが目に見えてわかった。靄は村の中心部へと集まっていったように見え、そしてかすかな煙を上げて確かに掻き消えた。
「っ……シュー!!」
歓喜すればよいのか嘆き悲しんだらよいのか、よくわからないまま背中のシューを見ようと体をひねり、そしてライフガントルはそのまま固まった。
「んー、でも、やっぱり楽には逝かせてあげられないのぉ」
甘く、高い声がライフガントルの耳についた。かわいらしい少女の声。この場に少女と言えばアンナしかいないが、その場にアンナはいなかった。いや、今思えば、“アンナ”という存在が確かに存在していたかどうかさえ疑わしい。――つまりは、“アンナ”自体が幻覚だったのではないか、と。
「しゅ、う?」
びしゃ、と、背中が真っ赤に染まるのがわかった。シューの体が完全に力を失くし、ぐらりと傾ぐ。……その横腹には深々と刃物が突き刺さっていた。
(……なんだ?)
ライフガントルは理解できていなかった。いや、むしろ理解することを拒否していたといってもいい。ただ、迎えた「死」は同じでも、こんな「死」ではなかったはずだと、そう、心の中で強く叫んだ。
(シューは幻覚を相殺し終えたら俺の背中で安らかに死にゆくはずだっただろ? 安らかにとはいかなくても誰かの役に立ったことを確認してしっかりと死にゆくはずだっただろう!? なのに)
なのに、なぜ?
シューのわき腹に突き刺さった刃物――それがクナイだと、ライフガントルはどこか冷静に分析していた――を、アンナではない少女は無表情に(そして乱暴に)抜き取ると、再び腹に突き刺した。今度は別の場所から、またぶしゅりと真っ赤な血が飛び出る。
「お前は、誰だ?」
ライフガントルはシューを落とした時の格好のまま、呆然と尋ねた。少女はもはやぴくりとも動かないシューを突き刺すことに飽きたのか、適当にクナイを抜き取ると、刀身についた血をペロペロ舐めながらライフガントルを見る。
少女は青みがかった黒髪をお団子にして、上の方にまとめていた。メリディエスあたりで小民族が着る民族衣装を身にまとい、深い青の瞳はライフガントルを見ていてその実何も見ていない。そんな瞳をライフガントルはどこかで見たことがある気がした。
けれどそれよりも何よりも目を引いたのは、彼女の顔を覆っている右半分。
顔の右半分を覆い隠すように、烏を象った面が付けられていた。
瞬間、彼女が何者なのかライフガントルは理解した。動けなくなってしまったシューはとりあえずその場にとどめ、とっさに彼女から距離をとる。
(メリディエスのシノビ、か?)
独特の衣装、そしてクナイという独特の武器、それから考えられるのは、彼女がメリディエスの東方に存在する小さな民族の一つ、“シノビ”というものだろうということだった。そして、その顔につけている面。これは明らかに、かつてダキリアを襲った狼面の少年と同列のものだ。
「蘭はね? すっごくすっごく怒ってたの。ルノーテ・ルミノスタはね、主様にとってとっても大事な僕を殺しちゃった。本当は利用するだけ利用して、主様の大切な一部になる予定だったのに」
少女は感情の見えない表情のまま、口角だけをにたりと上げて続ける。
「まほーつかいはね、殺しちゃいけないって言われてるのぉ。だから、殺さないであげる。でも、ルノーテ・ルミノスタはだめ。主様が殺さなくていいって言ってても、いずれ死ぬってわかってても、蘭が殺してあげたかったのぉ」
ね、わかるよねぇ? まほーつかい。
少女はけたけたと笑いながら、綺麗に血が取れたクナイをしまった。それから村の方を向いて、楽しげに続ける。
「でもねぇ、ルノーテ・ルミノスタを殺したのは本当はおまけなんだぁ。だって、蘭は本当はきつねえに会いたかっただけなんだもぉん。だから行くね。ばいばぁい、まほーつかい」
少女は呆然とするライフガントルに目もくれず、軽やかな動きで村の中へと入って行った。瞬間、ライフガントルは言いようのない憎悪に襲われて、感情のままに少女を捕まえようと腕を伸ばした。
けれど、結局その腕は何もつかみはしなかった。びちゃり、と音がして、シューの体から流れ出た血液がズボンにはねた。