薄暗いテントの中。苦しげなシューの声が上がるだけの空間で、ライフガントルは深いため息をついた。
「……お前は何でもわかるんだな」
低い、低い声で告げられたことは肯定を意味していた。だれかがひゅっと息をのんで、シャーレはゆっくり息を吸い込んだ。
「それで、実際なんなんだ。シューのこの様子は」
見た限り毒がまわっているわけでもなさそうだ。続けられたシャーレの言葉に、ライフガントルの瞳がわずかに広がる。
「さっき診た時だよ。シューの体内にどれくらいの毒がまわったのか調べたんだが、おかしなことに毒は検出されなかった。シューが襲われたという時から不自然だとは思っていたが、実際に見てみて確信したんだ」
シャーレはこともなげに言った。ジュノンには一体彼女がどうやって体内にある毒を検出したのか理解できなかったが、ライフガントルはしかしそれで納得したようだった。
「なるほどな。確かに、お前ほどの力を持っていればこの程度のウソ、すぐに見抜けるか」
それから彼は重く息を吐きだして、
「いいぜ、説明しよう。シューの体で今何が起こっているのか、どうしてこうなったのか」
薄暗いテントの中。苦しげなシューの声が上がるだけの空間で、低い、低い声がそう告げた。
レイニータウンの守人の一族は、メディアスが生まれるよりもはるか前から存在している、人間(ウマーノ)で最初の「異端能力者」達の集団だった。彼らが使役するものは「幻術」。今でこそ、三界力で似たような現象を引き起こすことができるが、守人一族の「幻術」と三界力による「まがい物」では、決定的な差があった。
守人一族の幻術はある種の「空間移転術」とも似ている。その筋の学者たちに言わせると、三界力による幻術紛いが相手に夢を見せるような、五感・意識の精度が忠実ではない物であるのに対し、守人一族のそれは感覚一つ取り上げても現実と全く変わらない、むしろ現実世界が幻と感じるようなものであるという。それはつまり、三界力の「幻術」では相手の精神面しか影響を及ぼさないのに対し、守人一族の「幻術」では相手に肉体的影響も及ぼせるということだ。つまり――彼らの「幻術」は人を殺せる。
それだけの精度の「幻術」を施すのに、守人一族は自分たちの所有する特殊な物質を用いている。「幻素」と呼ばれるその物質は、守人一族の体内からしか検出されず、通常の人間が所有すれば「幻素」自体が持つ強烈な幻覚作用と毒によって、三秒と持たず死んでしまうのだという。そんな危険物質を体内に入れている守人一族も、基本構造は人間と同じだから全く無傷でいられるというわけではない。一応「幻素」に対応しうる抗体を体内に所有しているから彼らは「通常の状態ならば」無事でいられるが、ある条件を満たすとその危険は飛躍的に上がる。
その条件となるのが「幻術を用いるか否か」であった。守人一族は「幻術」を用いる際、体内の「幻素」を自身の声に乗せて相手に直接ぶつける。相手の体内に「幻素」を流し込む方法もあるが、この場合は百パーセントの確率で相手を死に至らしめるため、滅多な事がない限り使用しない。はたしてどのようにして守人一族が「幻素」を声にのせているのかいまだ解明されていないが、この時、彼らの体内は一時的に「幻素」に「侵された」状態になる。最も、彼らの体内には先に述べたように「幻素」に対する抗体がある。故に、ただ「幻術」を使うだけでは彼らは死に至らない。単純に「幻素」に「侵された」状態ならば、抗体が「幻素」の持つ毒素を打ち消してくれるからだ。しかし彼らの体には弱点があった……つまり、彼らは新たに抗体を生み出すことができない。
では新たに抗体を生み出せないとどうなるのか。たとえば一度「幻術」を用いるのに「幻素」二つが必要で、「幻素」一つを打ち消すのに抗体が四つ必要だとする。この場合一度「幻術」を用いるのに必要な抗体が八つということになる。仮にシューの持つ抗体の総量を二十とすると、一度に八つずつ失われ、かつ新たに生み出すことができないわけだから、シューは二回「幻術」を用いるだけで十六の抗体が失われることになり、三回目に用いようとすると抗体量が足りず、「幻素」の毒に対応できなくなってしまう。
もちろん、「幻術」と大きくまとめてみても、その精度や規模によって使用する「幻素」の量も、「幻素」に対する抗体の量も大きく変わってくるが、簡単に言うと、彼らは決められた量の分だけでしか「幻術」を用いることはできないのだ。
そしてその限度を超えると、彼らとて死を免れることはできない。
「シューは純粋な守人ではないが、魔法使いとのハーフだ。俺は、シューが持つはずだった魔力はシューの体内にある「幻素」と何らかの反応を起こしたんじゃないかと思っている。シューは自分の幻術が他の奴らよりも強力なものだと言っていた。でもこの場合、シューの力が強力だということは何のメリットにもならない。幻術が強力であればある程、比例して「幻素」の力も強いということだ。魔力の影響でシューの持つ抗体も多かったんじゃないかと思うんだが、どうやら寿命が来たらしい」
本人がそう言っていた、と、ライフガントルは苦々しげに締めくくった。ジュノンはライフガントルの説明した「幻術」云々の半分も理解できなかったが、それでも一応、シューが「幻術」を使えば使うほど、彼の命が削られていくというその一点は理解できた。
「……つまり、今シューを苦しめているのは彼の体内にある特殊な物質、「幻素」で、普通なら抗体が打ち消してくれる「幻素」の毒が、抗体量が足りないためにシューを蝕んでいると、そういうことだな?」
シャーレが難しい顔をしてライフガントルを見た。ライフガントルは彼女の鋭い視線に一瞬ひるんだが、やがて深いため息をついて頷く。
「……守人一族の抗体量の減少は、彼らの瞳を見ればわかる。彼らの瞳の色はそれぞれ違うが、抗体量が減ってくると瞳の色が薄くなってくるんだ。しかしそれは、相手に知られると弱点にもなりうる。だから守人一族は、一族の子が生まれるとすぐ、その子を媒介とした半永久的な幻術をかける」
え? と、声を上げた。ライフガントルは気にせずに続ける。
「……お前ら、シューの瞳の色は何色か、って聞かれたら、きちんと答えられる自信があるか?」
突然聞かれた質問に、ジュノンは戸惑ってロニテスを見た。ロニテスも困惑の色を隠せず、動揺したようにジュノンを見ている。ただ一人、シャーレだけは納得したようになるほどな、と呟いた。
「シューを見るたびにいつも感じていた違和感がようやくわかった。シューの瞳が何色か、と問われても、私はどう答えればいいのかわからない。……“知らない”からな」
シャーレが続けた言葉に、ロニテスはあ、と小さく声を上げた。ジュノンもライフガントルの言わんとしていることを理解して、なるほど、と呟く。
「そう、お前らはシューの瞳の色を“知らない”。シューにかけられた幻術を解く条件は、シューの“本名を知っていること”。それも、シュー自身から名乗られることだ。だから、シューが“シュー”という名前だということしか知らないお前たちには、奴の瞳の色を知ることはできない」
ライフガントルの説明にロニテスは再び声を上げると、もしかして、と続けた。
「レイニータウンに入る前に受けた検査って、その瞳の幻術に関係していたりするのか? 前にシューが“幻術の媒介は声”って言っていたけど、俺達が検査を受けた時、シューは声を出してすらいなかった。……ずっと、何かおかしいと思ってたんだけど」
「良くわかったな。守人一族が行う選抜方法は、正しくは幻術じゃあない。お前らもそうだと思うが、シューの瞳を見た直後、自分にいったい何が起きたのか、今考えても思い出せないだろう? 奴らは己の瞳を対象相手に直視させることによって、意図的に対象の原風景を覗き見ているんだ。俺達は、奴らが自分を覗き見ている感覚を瞬間的に感じ取る。以前シューに聞いた話だと、原風景は人それぞれで全く違い、時間、色彩、音、感覚、全てがばらばらなんだそうだ。だから、傍から見ている分には一瞬に思えるあの行為も、シューが疑似体験している原風景の中では、一日だったり一週間だったりすることがあるらしい」
ライフガントルは長い説明を終えて、ふう、と息を吐いた。シャーレの処置によって幾分かましになったとはいえ、目の前のシューは相変わらず苦しげだ。ライフガントルはほの暗いままのテント内をぐるりと見渡してから、静かに続けた。
「でもまあ、今はこんな話をしている場合じゃないな。ともかくシューは、タウンに入る前に見た時から大分瞳の色を失っていた。だから俺も、タウン壊滅の際にシューの幻術を使わない方法でやるつもりだった。だが、シューは聞かなかった。あいつは自分の手で、タウンの人間を湖の底に沈めると、言って聞かなかった」
「シューは」
一度区切られたライフガントルの言葉に割っているように、シャーレがふと声を出した。全員の視線が彼女に集まる。彼女はぼんやりとシューの苦しげな表情を見たまま、それから彼自身の言葉を発するように、言った。
「シューは、死に場所を求めていたんだろう」
ひゅ、と誰かの喉が鳴った。ジュノンはじっと彼女を見ていた。ゆらゆら揺れる定まらない明かりが、彼女の影を幾重にも作り出す。ライフガントルが視界の端でゆっくりと唸った。
「どうして」
それが肯定の合図だと理解したとき、そう問わずにはいられなかった。ジュノンはじっとシューを見詰めたまま、壊れたように繰り返す。
「どうしてどうしてどうしてどうして」
答えてよ、シュー。
悲痛な声にこたえるものは誰もいない。隣のロニテスがゆっくりとジュノンの背中をさすった。
「シュー」
ねえ、シュー。ジュノンは声にならない声で彼の名を呼ぶ。シューは苦しげに一つうなっただけだった。
死にたかったの、シュー。
「……シューが倒れる寸前、こいつは俺に言った。“ロコモラまで運んでくれ”と。何か嫌な予感がするから。自分が必要な気がするから、そこに運んでくれ、と」
だから一刻も早く、「幻素」の毒がまわりきらないうちに、シューを運ばなくては、ライフガントルが言外にそう言っているのを全員が理解した。戸惑うような視線でロニテスがシャーレを見ると、彼女は険しい顔つきでシューを凝視したままで、それからゆっくり息を吐いた。
「……シューをどうしても早く連れていかねばならん理由は、わかった。だがしかし、ライフの案はやはり駄目だ。あまりにもリスクが高すぎる」
「じゃあどうやって!」
ゆっくりと言葉を紡ぐシャーレに、耐えきれなくなったようにライフガントルが吠えた。彼の瞳がぎらぎらとしている。こんなライフガントルは初めて見た、と、ロニテスはぼんやりとした頭の隅で考えた。
「どうやってロコモラまで行くんだ! 手負いのシューを抱えながら! それともお前は、シューの最期の頼みすら聞けないって言うのか!?」
「もうやめてよ!」
ライフガントルが悲鳴のような声で怒鳴った瞬間、それまでシュー、と彼の名を呼ぶばかりだったジュノンが酷く冷たい声で叫んだ。
あまりのことに時が一瞬止まった。ロニテスはジュノンの背をさすっていた手を止めて、思わず彼を凝視した。うつむいた彼はぽたぽたと透明な何かをこぼすと、そのままの状態で告げる。酷く低い声で、感情のない声で。
「死に場所を探すとかなんとか、僕には難しいことはわからないよ。シューには死んでほしくないし、死に場所を探すなんて、そんなあきらめたこと言ってほしくないい。でもシューは今現にこうして苦しんでる。シューが死にそうだっていうのは、バカな僕でもよくわかるよ。だからとりあえず……」
一息で言葉を続けるジュノンを、残った全員が呆然としたまま見詰めていた。ジュノンの顔がゆっくりと持ちあがる。うっすらと涙を残した彼は瞳に強い力を込めて、視線だけで人を殺せそうなほど強く睨みつけながら、言った。
「死にゆくために何をするかじゃなくて、死なないために何ができるか、話したい」
そしてその言葉に最初に答えたのは、苦しげに身じろぐシューのうめき声だけだった。
沈黙が支配した空間で、ゆっくり深く息を吐いたのはシャーレだった。彼女はどこか諦めた表情で、それから酷く悲しそうな表情で、ぽつりと、言葉を漏らす。
「……私が」
全員が彼女を見る。ジュノンは先と同様に、何かを睨みつけるような視線のままだ。
「私が、全員を運ぼう。それなら文句ないだろう」
しかしその言葉を瞬時に理解できる者はいなかった。全員が、ライフガントルまでもがわからない、という表情でシャーレを見つめている。シャーレは再び深く息をついて、意を決したように早口で続ける。
「私は三大能力者(アブソルタス・メディアス)だ。ライフ、お前ならこれだけでどういうことかわかると思うんだが」
そして彼女の言葉の通り、ライフガントルだけが小さな音でのどを鳴らした。驚愕に見開かれた瞳がシャーレを凝視している。ジュノンもロニテスもわけがわからず、ただ彼女とライフガントルを交互に見やるだけ。
「……ゲートを使うのか」
予想外に低い声で発せられた言葉に、びくりと肩を揺らしたのはジュノンだけではなかった。ロニテスもまたびくりと大きく体を揺らして、戸惑うような視線をシャーレに向けている。シャーレは、ただ何も見まいとするかのように強く瞳を閉じている。
「それしか方法はないだろう。今まで黙っていたことは謝る。幸いロコモラに行った経験はあるから、明日にでも着くはずだ」
「いや……実際に言いたくなかっただろうことは予想がつく。お前にこんな思いさせて悪かった。……頼んでも、いいか?」
「それしかないなら」
目を閉じたままのシャーレと彼女を凝視し続けるライフガントルの会話は、もちろんジュノンにもロニテスにもさっぱりわからなかった。ただ推測するに、どうやらシャーレが何らかの方法で自分たちをロコモラまで連れて行ってくれること、それがどうやら明日にでも着くらしいことを理解すると、場の空気から不謹慎と分かっていても、ジュノンは安堵せずにはいられなかった。
(シューが、助かるかもしれない)
シャーレはすごい。そんなすぐにロコモラへ着くことができるなら、何でもっと早く言ってくれなかったんだろう? 次々と生まれるとりとめのない思考をそのままぶつけるようにライフガントルを見れば、彼はどこか戸惑ったような、それから複雑な表情をして、一度ジュノンの頭をゆっくりなでただけだった。
「……どういうことだ?」
疑問をそのまま口に出したのはロニテス。ライフガントルの口ぶりからどうやらシャーレによくない力らしいと推測はできたが、それならなおさら、彼女にそれを使わせるわけにはいかないと、そう、考えてのことだった。しかしシャーレは哀しい視線をロニテスに向けるだけで、疑問に答えようとはしない。
「今は、まだ」
それだけ発して、それきり、彼女は何も言わなかった。
翌日、テントを片づけて出発の準備を済ませると、全員がシャーレの前に集まった。シャーレは本当にその力を使いたくないのだろう、普段の彼女らしからぬ酷い顔色で、集まった三人(と、シューはライフガントルの背におぶさっている)を見渡した。
「ライフは言わずとも分かると思うが、私がこれから使う力は他言無用で頼む。今のところ、ライフの魔法以外でこういった移動能力があるのは私だけだと思うからな」
彼女は一言、それだけ言うと、後はどんな質問も受け付けまいとさっさと準備に入ってしまった。こちらに背を向けた彼女が何かを呟いた気がしたが、それを聞きとれたものは誰もいない。ただ、それを呟き終えるのと同時に前に出された彼女の右手が、何か固いものを掴んだかと思うと、まるで普通の家の扉を開けるような感覚で、ごく自然にその扉は「現れた」。
「これは……」
「……さすがの俺も実際に見るのは初めてだな、これは」
ロニテスがひきつった声で呟くのと同時に、ライフガントルが低い声で言った。シャーレは何でもないことのように扉を開き切る。扉の中はただひたすらに暗闇が広がっていた。
「手を……手を、つないでくれ。絶対に離さないで。離れたら暗闇の中に取り残される」
す、と、左手を差し出して彼女は言った。その手をためらいなくつかんだのはライフガントルで、彼は「シューはこのままで平気か」と彼女に聞いた。ライフガントルの左手はジュノンの右手に、ジュノンの左手はロニテスの右手につながれると、シャーレは深く、ゆっくり息を吐いて、それから意を決したように顔を上げた。
「少し歩くかもしれないが、実際の時間軸じゃ十分もかからない。くれぐれも、手を離さないでくれよ」
その声は普段と変わらなかったが、少しだけ強張っているように感じた。全員がしっかりと頷いたのを確認して、シャーレは扉の向こうへ足を入れた。同時に、闇で覆われていた扉に波紋が広がる。彼女は気にせずに全身をその中に入れた。
こちら側に彼女の腕が見えているのに、その先が何も見えないというのは奇妙な感覚だった。全員が何か不思議な感覚のまま、彼女に倣って扉の中に飛び込んでゆく。何が起きているのかいまいち理解できていない、ジュノンやロニテスはその中へ入っていくことに酷く不安を覚えていたが、それでも、進まざるを得なかった。
「どこに、向かってるか、本当にわかるの」
ぼんやりと不安げにジュノンが声を上げた。言葉は闇にのまれて響かなかったけれど、不思議と脳に直接響いてくる。誰かが声を上げるたび、その音は脳内で反響しあい、全員にひどい頭痛をもたらす。
「大丈夫だ、あまり喋るな」
前方でシャーレが淡々と言った。彼女はこの痛みになれているのだろうか? 互いに握りあった掌が、互いに強張ったのを全員が感じていた。その中で、シャーレだけが浮いていた。
――ああ、彼女がこの世界の主なんだな。
瞬間、唐突に全員がそう感じた。最も、「ゲート」のことを知っていたライフガントルはその事実を知っていただろう。けれど知識として「知る」のと、感覚として「理解する」のとでは全く違う。全員が、この場所・空間の神が一体誰なのか、悟った。
(今、この手を離したら、僕はきっと一人でこの中に閉じ込められて、声も出せず、どこに向かっているのかもわからず、泣くこともできずにさまようだけなんだ)
ジュノンは思う。同時に、ライフガントルを挟んで「シャーレとつながっている」という強い感覚に囚われた。なぜだろう、もっと彼女の傍に行きたい。行かなければ。ライフガントルを挟んでいるのが、ひどくもどかしい。
それはロニテスも同じだった。自然、どこか早足になる二人はもはや縦一列ではなく横一列になっていた。誰よりも近く、近く、シャーレのもとに行きたい。それは狂ってしまいそうな感覚だった。
「……囚われるなよ」
「それ」に良いことなんて一つもない、待っているのは絶望だけだ。
唐突にシャーレが声に出してそう言って、それで、二人の速度は緩んだ。凛とした声が耳を突き抜けて脳内で反響して、やっぱり頭痛をもたらしたけれど、その痛みはどこか現実味を帯びていて、麻痺していた感覚を呼び覚まさせた。
(いま、いったい、)
何が起こったんだ。考える間もなく強い力で腕をひかれた。前方を見ると、暗闇の中にいつの間にか大きな光があふれている。ああ、出口だ。誰ともなく呟いて、その呟きに全員が顔をしかめた。
そして光にのまれていった。