prologue : A

――それは、はるか昔の物語

――世界は混沌に包まれていた。

 惑星サークラスはきれいな星だった。緑豊かで、海も澄み、空はどこまでも青かった。
 だがしかし、いつしかそれらは失われていった。

 誰が盗んでいった? この、幸せな星の生命を。

 空を仰げば汚らしい赤色が満ちていた。海を見やれば彼方までどす黒いどろどろとした液体に侵食されていた。地を向けば草木は枯れ赤土となり果てていて……サークラスの、悲鳴が、聞こえた。

 誰が盗んでいった 誰が盗んでいった
 しあわせなほしのいのちを
 しあわせなほしのいのちを

 ああ、それは人間だ。ウマーノと呼ばれる魔力も持たぬひ弱な生物。彼らが己の生を守るために生み出した超科学。あれは、ほしを、壊してゆく。
「ウマーノを消せ」誰かが言った。
「ほしをたすけろ」囁くように、誰かが。
 彼らは星の守護者であった。星の核を知っていた。

 聖葉子を守らねば、星は死ぬぞ、我らは死ぬぞ。

 天魔の力を借りましょう、ひっそりと行われた暗闇の中の小さな会議。声を出すのも恐れ多い、天魔族(カッティボ)という種族の者たちは、世界を浄化しようとしていた。
「大天魔様が力を出せば、星はきっとすくわれる」
「大天魔様が力を出せば、人間(ウマーノ)はきっと滅びるだろう」
 ああ汚らわしい種族! 偉大なる浄化の神によって、母なる大地に戻るがいい!


 天魔族は浄化の神を召喚した。偉大なる神、母なる神。しかし、神は彼らの願いを聞き入れなかった。
「もう手遅れじゃ、星は死んだ」

 空は黒く裂けていった。海はどんどん水位を失くし、大地は液状に溶けていった。

「浄化とは、すべてを一度無に帰すこと」

 彼らの神は言った。そして、言葉の通りに浄化した。
 星の破滅。彼らの世界の消滅。それは、天魔族にも人間にもいえること。
「神を止めねば、星は滅びる」
「しかし神だ、我ら天魔では手が付けられぬ」

 何も知らない人間たちは、破壊を進める大天魔に立ち向かう。しかし力の差は圧倒的で、神がちょいと息をすれば、人間の国は吹き飛んだ。
 そこに英雄がひとり、

「おおそうだ、人間を使おう、封印くらいなら彼らにもできるだろうよ」
 天魔の誰かがそう言った。そして彼らは、一人の人間に力を託すことにした。
「聞いたかい、ヒルベストって男が神を封印できるらしいよ」
 彼は元来不思議な力を持っていた。
 それは、天から加護を受けたもの。天魔の長は、彼に三つの力を与えた。

「これで、星を、救ってほしい」

 ああなんという皮肉だろう。ことの原因である人間の青年に、すべての結末を託すなんて。星の未来を託すなんて。しかし青年はやさしく笑う。ただ、笑って頷いただけ。


 そして、簡単に神をあるべき場所に戻してしまった。


 彼は元来不思議な力を持っていた。故に、彼は天魔の力を難なく受け入れることができたのだろう。
 彼は封印の際三つの力をそれぞれ三人に分け与えたというが、果たしてそれに意味はあったのか。

 魔界の力を
 天界の力を
 地界の力を

 すべて持つのは苦しすぎる。恐ろしすぎる。
 彼は小さな声で囁いた。
「もし僕が自分を制御できなくなったら、誰が僕をとめてくれる?」

 つまり、そういうことだった。


 こうして世界は救われた。
 人間たちは科学を捨てた。昔の、何もなかった時代に逆戻ったみたいに。
 天魔族は人間たちから追われ彼らの土地に閉じこもった。人間たちから罵倒され、自分たちも人間たちを罵倒しながら。
 世界はゆっくりもとの姿に戻っていった。

 そのあとどうなったかは、あなたはもう知っているだろう。
 だってこれは、もう、五千年も前のこと。

(ジョン・スペックマン『せかいのはなし』 メディウム中央出版)

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