STORY
![]() index > story > 口先だけの約束などもううんざりだ、 森の中は高い木々が立ち込めていて、柔らかな日差しを覆い隠していた。腰を引かせて私についてくる少年を少々疎ましく思いながら、しかし私は黙々と道なき道を進んでいた。 薬草のあるポイントは知っていた。その周辺にどんなモンスターがいるかも、陣地争いが起きていなければある程度は把握している。すでに何度目かになる訪問で、この少年さえいれば成功率はそこそこの数値だったはずだ。 「どこまで行くの?」 私の足が奥へ進めば進むほど、彼の体は小刻みに震えていく。何が守るだ、口先だけの約束などもううんざりだ、そんなことを思いながら、しかし彼をここに放置していくことも憚れて、仕方なしに小さな声で答えた。 「もう少しだよ。池のほとりに沢山生えているから」 「そっか」 震える声で返事が返り、思わず声に出して笑いたくなる。チョーカーをつけた男子のくせに、この少年はどうやら戦うすべを知らないようだ。女の私が生まれたその瞬間から戦い続けているというのに。 「君は、どうしてこんなことをしているの?」 少年はくるくるとした、何も知らないような瞳で私に尋ねた。売られた人間ならば知っていようものを、瞬間、少年が酷く憎らしい存在に思える。しかし、もしかしたら本当に何も知らないのかもしれない。なぜそう思ったのか知らないが、しかし私は、怒りを胸に静めて先と同じように答えていた。 「奴隷だから。私の家はお母さんが病気で、薬が必要だからいろいろな店の奴隷をやっているんだよ」 瞳を見つめ続けていたくなくて、顔をそらして答えた。 少年は小さく息をのんで、しかし何も言わなかった。 「君は? どうして売られたの?」 何気ない質問だった。自分の身の上を話したのだし、他人の身の上も聞いてもいいという程度のちょっとした好奇心。疎ましいとは思えど、口先だけでも私に手を差し伸べたのは彼だけだった。それは、今思えば後にも先にもということなのだが。 「売られた…?」 戸惑いの声を感じ、足を止めて振り返る。大きな瞳がこちらを不思議そうに見つめているのが見えた。瞳の奥には疑問が渦巻いてるのが見て取れる。なにがおかしいのだろう、問いただそうと口を開いた時、まるで計ったようにそれは訪れた。 「っうしろ!」 叫ぶが早いか、少年はつかんでいた私の服を思い切り引っ張り前に倒した。後ろから現れた中型の魔物。ぎらぎらとした眼には、怯えきった少年と、無表情の自分の姿が映っていた。 「さがってて」 彼が当てになるなどとは思っていなかった。それに、私が戦うことによって彼がどう思うのかも考えてはいなかった。ただ、生きるために、懐から小型のナイフを取り出した。 今思えばよくあんなちゃちなおもちゃで戦えたと思う。生活状況でいえば何ヶ月かに一度だけある、薬草採取が人生で一番危険な場面だったのではないか。小さな体躯で小型のナイフで、相手は自分より二倍はあろうかという魔物。その時の自分がいちばん戦闘能力が高かったのではと思うほど、無茶に等しい戦いだった。 先に動いたのは魔物だった。やつらは何も考えてはいない。ただ目の前の獲物を食すことに意義があり、そのために行動する。そういう生き物だ。 そしてそれが、人間とどんな大差があろうか。 その時そう思っていたかはもはや定かではない。ただ握りしめたナイフが扱ったのを覚えている。瞬間、気づいたら地面をけっていた。風のように、風のように、念じながら足を進めると誰よりも早く走れた。振り上げられた腕をかわし、鋭利な爪と牙をかわし、小柄な体を生かして瞬時に懐に入り込む。一度腹にナイフを突き立てようとして、間に合わなくて吹き飛ばされる。木にぶつかり少し血を吐いたが、頭にはもう魔物を殺すことしか残っていない。 「ひっ」 ただそんなとき、恐怖で立ちすくんでいた少年に魔物が標的を変えたから、それだけだ。何が原因でそう思ったのかわからないし、何が私をそうさせたのかもわからない。 ただ、振り上げられた爪が少年に振り下ろされる前、彼をかばって攻撃を受けていた自分がいた。 「っ君!」 血しぶきがあがって、けれど私は倒れるわけにはいかなくて、第二撃を繰り出そうとする魔物の腕をもはやよけることもせず、出せる限りの猛スピードを出して魔物の首にナイフを突き立てた。ざしゅりという残忍な音がして、そのまま横に引けば血管とか筋肉とかがちぎれる音がして、最後に肉を突き破ってナイフが見えた。 首が落ちた。 魔物の体がぐらりと揺れて、後方に倒れていく。ナイフを突き立てるためにとび跳ね魔物の体にしがみついていた私は、魔物と一緒に倒れていく。これ以上怪我をすることはないだろう。倒れた時の衝撃は、魔物の体が緩和してくれる。 「……!」 少年が恐怖と驚愕で目を見開いている。そんなに目を開いたら目玉がこぼれおちてしまいそうだ。 なんだかばかばかしいことを考えて、そろそろ死に時かなと柄にもなく思った瞬間、私は意識を手放した。 |
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