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小さな小さな束縛。

 しばらくケージは地下室と自室とを行き来する毎日を送った。その間、ルーナの計らいか、他の任務が舞い込んでくることはなく、以前よりは余裕在る生活が続いた。
「やはり無理です」
地下室の監視室で城内の様子を見つめながら、ケージはルーナに言った。
「警備が硬すぎです。いくら私でも、夜動かなければ暗殺など……」
「でも、夜は駄目だ。私が許さない」
強張った声でルーナが答えた。彼は孤独をひどく嫌う。しかしそれは己だけではなく、ケージが独りきりになるのもひどく嫌がった。

小さな小さな束縛。

徹夜の作業で自室に戻れないことも少なくなかったケージは、夜を彼と過ごすことでそのことを強く感じていた。
「しかしルーナ様。私以外に誰がやれるというのです。これは私の仕事です。私がやらねばならないことです」
はっきりとした声でケージは言った。ルーナの瞳は揺れていたが、その首を縦に振ることはない。
「ケージ、私は貴方が傷つくのに耐えられない」
「では、なぜ」
講義しようとして、ケージはそれを言えなかった。
ルーナの立てられた人差し指が、己の唇に添えてあった。
「無理なものは無理なのです。さあ、まだ仕事があります。私はこのまま続けますから、ケージは数時間、仮眠をしてきてください」
貴方の部屋で、耳元で囁かれて、ケージはとっさに飛びのいた。そして、すぐさま失態に気づく。
「あ……」
ケージはしばらくルーナを見つめていた。ルーナはケージに一つ微笑むと、机に向かって作業を始める。
「…………承知しました」

その一言を口にするのに、ひどく時間が必要だった。




始めにここを訪れたときに案内された、ケージの部屋へと向かう。道のりは全て頭に叩き込んであった。「売られた子」で軍事関係へ進む者なれば、一度見た地図を全て記憶するくらい、造作もないことだった。
自室のものとは違う、ふかふかのベッドにダイブする。
ふと自室の……地下牢のことを思い出し、ぼんやりと仲間を思った。


まともに口すら聞いたことのない、仲間。


しかしルーナの任務についてから、何人かと挨拶くらいは交わすようになった。
毎日毎日地下牢を出て行くルーナを送る、番人階級の者達だ。
彼らはケージをいつも微笑みながら送ってくれた。
番人階級はケージも経験したことだった。今の階級にのし上がるまで、様々な下積みを積み、その苦労も知っている。
ゆえに、ケージは番人たちが家族のように思えたのかもしれない。
名前も知らない彼らだが、ケージがたまに貴族階級並のベッドで眠っていると知ったら、一体どんな顔をするだろう。
そう考えるといつも眠れず、今日もケージは身体を起こした。
「眠ろう」
小声で言いながら、身体はベッドの下へ。
ベッドを背もたれに床に座り込んで、肌身離さずもっている剣を持った。ルーナとあうときは、腰ではなく背中にさしているが、ここではその必要もない。
そんなことはないと知りながら、警戒しながらケージは眠った。





夢を、見た。
小さな頃の夢。


とてもとても、暖かでくだらない。




夢を、見た。




とても懐かしい、気がした。