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自分と同じ、暗い暗い闇。

 ぱさりと紙が舞う。自身の固いベッドの上で、この冬初めて支給された薄い毛布に包まる。
とても寒い夜だった。
ルーナからの任務の詳細を聞いたケージは、まず真っ先に任務遂行は無理だと悟った。
今まで必死に生きてきた命もこれで終わり、そう思うけれど、いっそのことこんな自分は消え去ったほうがいいのかもしれないとも思う。

汚れてしまった、自分。

きっと誰ももう、一生自分を大切にしてくれることなどないのだと思っていた。
ルーナに少し優しくされただけで、彼の手に落ちるのはケージにとってかなり不本意なことだったが、それでも良いと思えた。

(記憶は戻らない。彼と私の関係も、分からない。けど、それでも良いと思った)

何度かの打ち合わせで、ケージはルーナが酷く孤独を嫌っていることに気がついた。
瞳の奥に光る闇は、恐らくは孤独の闇。
自分と同じ、暗い暗い闇。

だからこそ、ケージはルーナに惹かれたのかも知れない。

何故だかルーナは、人一倍ケージを大事にした。
大事にされることに慣れていないケージは、いっそ殴って弄んで、捨ててくれたほうがましだったのだけれど。
けれどルーナは、持ち合わせている限りの優しさでケージを包もうとした。

まるで傷を癒すかのように。

(分からない。あの男が何の目的でこんなふざけた任務を行おうとしているのか)
障害があるのは確実だった。
いくら暗殺部隊の隊長である自分でも、かなわない相手くらいいる。


王近衛の、将軍マリトス。


(間違いなくマリトスは計画を阻止しようと動くだろう。彼は帝王に忠実だ。その厳つい顔と屈強な身体で、私たちを潰しに来る)
問題はいつ情報が彼らの元へ渡るかということ。
ルーナは帝王とは別の、独自の情報網を持っている。
自分の周りにおいている側近達も、恐らく彼が自身で選んだ信用の置けるものたちなのだろう。
風の噂で、ルーナの部下達は皆、ルーナが留学時代から付き従っていたと聞いた。
(絶対に無理なんだ、こんな計画)
それが何故、自分のような本来帝王に付くべく人間を自分側に押し込めたのか。





すっかり家主の寝入った部屋の中で、どこからともなく入り込んだ風で書類が揺れた。
付けっぱなしの蝋燭が消され、書類がはためいて表紙まで戻る。




『アルス帝王暗殺任務:要綱』





複雑な暗号で記されたその任務書は、舞うことなくケージの机の上ではためき続けていた。