STORY
![]() index > story > 恐怖と憎悪にあふれた彼の瞳 ――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…… ――…………? 「っ!」 暗闇の中で目が覚めた。 気がつくとそこは自分に当てられた牢獄のようないつもの部屋で、ケージはチョーカーを外さずに寝てしまっていた。 起き上がる。布団に皺が入り、少し沈む。 今見た夢は何なのだろう、ひたすらに恐怖を感じ続ける夢。 ひたすらに苦しみを感じ続ける夢。 起き上がって、チョーカーを外して、ケージは初めて自分が冷や汗をかいていたことに気がついた。 嫌な汗。 その汗が全身を伝い、シーツを少し湿らせていた。 外したチョーカーをベッド脇のテーブルに置いた。ことんと軽い音がして、それはいとも簡単に崩れるように座っている。 自分を簡単に束縛する小さな小さなチョーカー。 けれどそれが今時分の目の前に力なく座っているのを見ると、なんとも奇妙な感覚に襲われた。 「…呼ばれてたんだっけ?」 意味もなく独り言。 昨日の記憶が曖昧で、ケージはぼんやりと呟いた。 昨日…ルーナという帝王の弟が自分に任務を授けた日。 彼に言われた言葉が未だによく分からず、ケージはぼんやりとした頭の中であの優しそうで…紳士的そうで…孤独と恐怖と憎悪に溢れた彼の瞳を思い出す。 (あれは、同じだった) 自分と。帝王と。セーフィと。あるいは他の“子供達”と。 自分が憎悪に溢れた存在だということは、ケージ自身当の昔に気がついていた。 それはそう、自らに“ケージ”と名を付けたあの日から。 ――自分は自分を縛り付ける籠だから。 ――自分はきっと憎悪を閉じ込める器だから。 ――だからあえて束縛の、“ケージ”という名をわが身に。 ケージは名を付けた日から、そのことを忘れたことはない。 実の母を殺したときも、気絶したときでさえも、ルーナと面会していたときも。 常にケージの思考を占拠しているのは、憎悪と嫌悪と恐怖の気持ちだけなのだ。 それゆえに自分はどこまでも残酷であることをケージは知っていたし、だからといって何をしたいというわけでもなかった。 「DS-00、上からのお呼びだ」 昨日と同じ声。同じ質の呼び方。さめた瞳。 鉄格子からもれるその微かな声を聞いて、ケージは静かにチョーカーを手にした。 着崩れしていたって構うものか、彼はそもそもそんなことは気にしないだろう。 「了解した。報告感謝する」 同じように返す。 さめた反応。諦めた声。 何もかもが昨日と同じ、繰り返し。 ケージは静かに重い扉を開き、軍服を着た伝達係りの目の前を通り過ぎて城へと続く長い廊下を歩いてゆく。 ケージが持つ憎悪と同じくらい低い、低い位置に設計されたこの長い廊下を、ずっと。 果たしてケージを呼んだのはやはりルーナ本人だった。 ルーナの自室へ行くとそのまま通され、客間に案内される。 「DS-00様がおつきになられました」 ケージを案内していた従者の“子供”が、ケージに「頑張って」と目で訴えながら客間の扉を開いた。 「失礼します」 簡単な礼をして中へ踏み込むと、自分の上に影が出来たのがわかる。同時に扉の閉まる音。 …先ほどの“子供”はもう次の仕事に入ったのだろう、もしくはルーナ自身にこの部屋に関わることを禁じられたか。 「顔を上げてください、ケージ」 ルーナは相変わらず丁寧な口調でケージの頭に向かって言い、ケージは言われたとおりに頭を上げた。 …ルーナの穏やかな視線と、ケージの鋭い視線が一瞬交わって消滅する。 ルーナは微笑んでいた。 「今日は貴方に教えておきたいことがあったのでお呼びしました。今回の任務は帝王…兄に極秘の超がつく重要任務なので、隠し部屋を使用するので」 ルーナは笑みのままそういうと、かがんで右掌を床に当てる。 隠し部屋と聞いて何となく束縛感を感じたケージはぼんやりとしていたが、やがて自分の床がゆっくりとだが振動していることに気づくとあわてて意識をそちらに向けた。 「この部屋は私とケージの指紋と手相に反応し、自動的に扉が現れ開錠する仕組みになっています。私が呼んだときは真っ先にこの部屋へ入ってください。…万一誰かに見られたとしても…まぁ、貴方に限ってそんな事はないと思いますが、万一のことがあったとしても扉自体を見つけられないので大丈夫です」 ルーナが説明して入間にも、床の振動はやがて大きくなり、ルーナを中心として大人一人がやっとは入れるくらいの小さな穴が現れた。 …穴というには少し語弊があるだろうか、それは穴だけれど穴ではない、見えない床でふたをされた穴。 そしてその穴こそが、隠し部屋へとつながる入口だった。 「開錠の仕方は簡単です。…円の中心に人差し指を乗せるだけ。簡単でしょう?」 言いながらルーナは円の上からどき言ったとおりに人差し指を乗せて開錠した。 すぐさま簡単な機会音が響き、穴の暗闇がより鮮明に変化する。 「後は体を滑り込ませれば、勝手に扉は施錠され再び隠されます」 ルーナは先にどうぞ、というようにケージを見上げた。 正直不安感が一杯だったケージは自分から入るのに少し勇気が必要だったが、それでもそれはたいしたことではなかった。 上からの命令だから、自分の中でそう結論付けて、ケージは穴に足を入れて座り込んだ。 ゆっくりと深呼吸。 「滑り台になっていますから大丈夫ですよ。…行ってらっしゃい」 ルーナのその言葉を合図に、暗闇の中へと体を預けた。 ゆっくりと横になり、ルーナがいっていた通りの滑り台をちょうど言い速さで滑り落ちてゆく。 暗闇はどこまでも続いていた。どこまでも、どこまでも。 |
![]() |