STORY
![]() index > story > 青い空はどこまでも続いていて、 魔物試合は至極簡単に終わりを告げた。 檻から放たれたトロールやらを相手に、00はまるで舞うように鮮やかな攻撃を繰り広げ、攻撃こそ受け無かったが決して観客を飽きさせない、じわりとしたゆっくりなスピードで進めた。 観客…暇な貴族や他国の来賓などは試合が終わるとともに総立ちとなり拍手を送った。 この日だけ特別に着ている真紅のドレスが、彼女の白い肌と光をなくした灰色の髪に映えて、美しい。 帝王の隣に位置する司会席から、帝王の側近であるセーフィの声がマイクを通して会場に響いた。 「この度は我が第三地域国軍最高峰でもあります、軍人D−00の舞技をご覧頂きましてまことにありがとうございました。以上を持ちましてこの度の試合は終了となります、お気をつけてお帰りくださいませ」 無機質な声がそう告げるのと同時に、観客だったものたちはいっせいに荷物を持って出口へと向かってゆく。 天井の無い円形形の競技場は、血が飛び散らないようにフィールドよりもかなり高い位置に客席があった。 そのためフィールドにただ佇む00からは、我先にと出口へ押し寄せる人の並が黒い靄のように見え、なんだか無性に笑いたくなる。 失笑。 そのまま視線を上に上げ、空を見た。 清清しいほど青い空はどこまでも続いていて、白紙の未来を自由に描いている。 けれどそれは00にとってただの皮肉でしかなった。 「DS−00」 声が聞こえて視線を戻すと、いつの間にかフィールドへ降り立っていた帝王とセーフィがいた。 00はぼんやりとした表情を強張らせ、あわてて跪く。 「見事な試合だった。さすがお前というべきか。いやはや」 帝王は髭の剃られていない顎を左手でさすりながら、これでもかというほどにふんぞり返った。 セーフィはその隣で至極冷たい瞳を彼女に向けている。 「お前の腕を見込んで、D部隊隊長初の任務を申し付ける」 帝王が顎をさすりながら反対の手を軽くあげた。 セーフィが前に出、長い羊皮紙を懐から取り上げ説明し始める。 「国にいる治療不可な患者を一掃する話は、愚民なれども風の噂でお前も聞いているだろう。その日程が先ほどの会議で今日に決まった。第二国立病院に国中の治療する金を持っていない患者、治療困難な患者を集め、一度殺害してから焼却処分することになった」 セーフィは満足したように一度00に向かって嘲笑すると、羊皮紙をくるくる巻きなおしてもとの位置に戻した。帝王が話し始める。 「そういうわけで、お前に行ってもらおうと思う。よいな?」 「は。D部隊長Sランクナンバー00、確かにその任承りました」 今更何の了承を得る必要があるのかと、何故そのような言い回しをするのかと腹立たしく思いながら00は下げていた頭をもっと深く下げた。 怒りが顔に出て、それを見られないように。セーフィはその様子を黙って見つめていたが、特に何も言いはしなかった。 帝王は満足したように微笑む。 「そうか。では、成功を祈って折るぞ」 00は知っている。その言葉の裏に、「成功しなければお前の命は無い」というメッセージがこめられていることを。 帝王はだが00のドレスと同色の、真紅の長いマントを翻し、不釣合いな王冠を揺らしながら帰っていった。 禿頭が王冠の下にすっぽりと納まっているのが、ひどく不自然だった。 セーフィはまだ競技場にいた。 空は相変わらず青い。雲は一定の速度で流れ続け、それが時間の流れを表現しているかのようだった。 目をつぶると目の前にオレンジ色が広がる。 日光を浴びて影となる自分の瞼が、その光を遮ってくれないことを00は腹立たしく思う。 (何故自分なんだろう…) 帝王が去っていった方向を見る。 城へと直接続く通路の前には、普段いるはずの憲兵はおらず、ただやけに神々しい巨大な扉が立ちふさがっているだけ。 その反対を見ると、魔物の檻がしまわれている「魔物庫」へと続く黒く小さな扉が、同じように道をふさいでいる。 後は扉など無い。 客席にはいくつかあるだろうが、フィールドから客席へ行くことは出来ず、00はただ自分を囲うように聳え立つ壁々にひどい嫌悪感を覚えた。 先ほど、立ち去る際にセーフィが残した言葉を思い出す。 : 『病人一掃は十四時より開始する。そのドレスはそれまでに返却して置け。ああ、だが、城へは十三時二十五分まで入るなよ。時間になったら軍服へ着替え城門で待っていろ。馬車が来る手はずになっている』 : セーフィは立派な髭をくるくるといじりながら呟くようにそう吐いて、足早に帝王の後を追っていった。 そういう業務連絡は先の時間に行ってしまうことだが、彼はなぜか秘密ごとのように自分にのみ言った。 00は胸の奥に何か不安が渦巻いていることに気がついた。どうしようもない喪失感。どうしようもない空虚感。 何でこんな気持ちになるのか分からなかったが、広く大きな空を見上げると、それすらもどうでもよくなった。 城へ続く扉の横にある、ついとなる二つの時計。 それらの針は全く同じ方向を指している。00は薄く笑った。 時刻は十三時二十五分。 城へと入れる時間。 重たい扉がゆっくりと開いて、中から二人の鎧をつけた憲兵が出てくるのを00は視界の端で確認した。 |
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