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あの日も静かに鳥が鳴いていた。

あの日も静かに鳥が鳴いていた。



「おめでとう」
感情のこもっていない声が00の耳に届いた。見上げる。
そこには同じく感情のこもっていない笑顔があり、00は少しだけ、伏せる。
「どうした、嬉しくないのか?」
お前ももう十歳だ、と、声は続ける。
太く低く、それでいて癇に障るような声。…それは帝王のものだった。
自分の周りでは、帝王と同じく至極感情の無い、まるで人形みたいな兵たちが静かな拍手を送っている。
向けられているのは自分だ。けれど、自分ではない気がして気が気じゃなかった。
「あ…」
小さく声を上げるも、帝王は気づかない。いいや、気づかない振りをしているのだ、本当は。
(ここに自分の居場所はないし、自分の味方なんてもっといない)
彼女はここに始めてきたときの事を思い出し、心の中で呟いた。
…誕生日がこんなに嫌になったのはここに来てからだ。
「ありがとうございます、帝王様」
仕方なく、彼女は恭しく頭を下げた。
この日のために、この日だけに着る事の出来る真紅のドレスの裾を持ち上げ、深々と。
普段子供用の軍服を身に纏う彼女にしてみれば、ドレスなど着たくもない。
しかし、なぜか自分だけは異例として誕生日の祝い事をされるため、彼女は着るしかなかった。
去年も自分はここにいた。
彼女は思う。
そして、その前も。
そうして誕生日の日には必ず、これと似たような綺麗なドレスを着て、自分には似合わないものを着て、帝王の前で跪く。
なんて馬鹿馬鹿しいんだろう、彼女は密かに自嘲した。
「いや、本当におめでとう」
その言葉を合図に、下げていた頭を上げた。微かに感情の混じった、興奮により紅潮し始めた帝王の微笑が見える。
(またか)
「早速だが、お前の誕生祝で試合を設けた。出席しなさい」
彼女がそう思うのと同時に、帝王は素早く言った。00は静かに頷く。
「それと、お前にD部隊の隊長任命を命ずる。よって、お前の番号も変わる…セーフィ!!」
これは予想もしていないことだった。
D部隊といえば、帝王の持つ陸空海の軍隊とは別の、影の仕事をする特別部隊だ。
影の仕事…要人暗殺や、スパイなどといったことだ。
そういえば前部隊長が作戦を失敗し公開死刑になったな、と00は静かに思った。
けれども関係ない。たとえ人数あわせの昇格だろうが、彼女にとってここで生きていくためには上へ行くこと以外なかった。
「帝王様、これにございます」
セーフィと呼ばれた立派なひげを生やした男が、帝王に何か書類を渡す。
噂では帝王は相当の馬鹿らしいということだ、もっとも、それは噂などに頼らずともこの「悪政」を見れば誰もが理解するだろう。
(とうとう改番号も分からなくなったか、馬鹿帝王のやつ)
00は密かに思ったが、心に留めるだけで口にはしなかった。そんなことを口をついて出たものならば、試合や昇格など一瞬で消えうせて公開死刑になるのだろう。
「ふむ…。D部隊長昇格を持ってS−01をDS−00へと改番号するものとする」
帝王は危なっかしい手つきで書類を持ち直すと、早口でそう告げた。
(ちなみにSとは「仕事」の最高ランクに位置される。子供たちはランクと番号で位置づけされるのだ)
00は分かっていた。
帝王は早くこの後の試合を見て、それから最近入ったお気に入りの女で遊びたいのだ。
帝王は、誰よりも血が滴る様が好きだから。
だから00はわざとゆっくりとお辞儀をしてやった。
「そのお言葉、ありがとうございます」
いつもより間延びした声で言ったのは、さすがにばれただろうか。
だがここで死刑だなんだといっていてはもっと時間がかかる。今ここで死刑宣告は受けないだろう。
加えて帝王は記憶力がすこぶる悪い。
この後の試合で楽しませさえすれば、今のことなどすぐに忘れてしまうだろう。
「それでは、私は試合の準備がありますので。失礼させていただきます」
ようやくがま蛙のような汚らしい男の前からどけるのと、動きにくいドレスが脱げるのとで00は綺麗な笑みを浮かべて彼にそう言った。
帝王はうんうんと二つ頷き返しただけだったが、その横にいたセーフィはかけていたメガネをえらそうに少し持ち上げ、00に釘をさしておく。
「帝王様はお前のドレス試着での試合を観戦したいと仰っています。服は脱がずにそのまま競技場へ向かいなさい」
すでに「帝王の間」のドアまで来ていた00は、後ろからかかった声に思わず振り向き、そして…

(何でこんなものを着て!)

と、心の中で叫んでからお辞儀をして出て行った。
赤い絨毯が広がる中で残った帝王が、のそりと動いて立ち上がったのと同時だった。