STORY
![]() index > story > 1. 小鳥が鳴く声が聞こえた。 小鳥が鳴く声が聞こえた。 皺の入ったシーツの上で何かが動いた。 開かれた窓から風が優しく入り込む。 そこは至極簡素な部屋だった。あるのはベッドと机のみ。 他に何もない正方形の部屋の中で、ベッドに静かに眠る人間がいた。 人間は男とも、女ともいえない容姿をしている。 汚れた灰色の髪は、全くと言って手入れをしていないようで枝毛が目立つ。少し前まではさらさらと流れていたであろうその髪は、人間の肩ほどまでで切りそろえられていた。 瞳の色は確認できないが、顔つきはまるで人形のように美しく、整っていた。 小さな呻き声が上がる。 鳥がもう一度静かに鳴いて、人間は目を覚ます。 「………」 ゆっくりと瞼を開け、下にあるビー玉の様な瞳が何もない天井を見上げた。 ビー玉の瞳は髪と同じ色をしていた。 人間は着ていたぐん服がやや着崩れしていることに気づき、起き上がってそれを直す。 ふと見ると窓は開いていて、カーテンが踊るようにはためいていた。 人間は立ち上がり、逃げるカーテンをまとめた。 ふと、空を仰ぐ。 澄んだ青色の空は、人間の髪の色と全く似合わなかった。 目の前に広がる大きな庭。その向こうの城壁。 自分は縛り付けられているのだと、籠の中の鳥なのだと人間は思う。 しばらく眺めていると、背後からノック音が聞こえ、それと同時に扉が開いた。 「DS-00部隊長、仕事だ」 入ってきたのは国のお偉いさんだろうか。高価そうな服を着た男だった。 人間はぼんやりと思いながら、名も知らないその男を見据え頷く。 「おっと、チョーカーを忘れるな、それがないと城には入れないぞ」 人間が頷くと、男は言った。人間はベッド横の机に転がっていた黒いチョーカーを掴み、何も言わずそれをつける。 ひんやりとした革の感触が、人間には忌々しく思えた。 無言で男の横を通り過ぎる。通り過ぎ様に、決まりきった至極事務的な言葉をかける。 「報告感謝する」 男はいやらしくニヤリと笑い、「愚民らしく使われてこいよ」と人間の背中に向かって付け足した。 世界は五つの地域に分割されていた。 北、南、東、西、そして中央。 中央地域には砂漠が広がっているが、他の四方にはそれぞれ国がある。 北にある第一地域国、 南にある第二地域国、 東にある第三地域国、 西にある第四地域国。 そして世界には、この四つしか国が存在しなかった。 四つのうちの、第三地域国は中でも最悪に位置する国だった。 人口三億六千人ほど。大きめな国だが、帝王と称される指導者がひどい悪政を繰り広げているためだ。 国民は重い税の他に帝王の命令に背くと公開死刑にされ、貴族と庶民の差が激しかった。 庶民は中でも「愚民」と呼ばれ、蔑まされ、そして。 その中で少しでも良い思いをしたもの達が、見かけの良いもの、腕の立つものを国に売った。 見かけの良い女は帝王によって弄ばれ、監禁され、虐待を受け、終いには捨てられて人身売買の道を歩む。 腕の立つ男は帝王が作った軍隊に強制的に入れられ、わざと前線や自爆隊に当てられ命を落とすか、帝王の前で魔物と戦わされた。 人々はこぞって美しい容姿を持って生まれた子供を帝王に売りつけ、または逞しい体を持って生まれた子供を、そうして得た金で他の国へと渡っていった。 売りつけられた子供は幼い頃から帝王の玩具となり、飽きた時点で捨てられる。 その間は何かあるまで城の中で監禁されるが、城内の兵や召使いなどからも「愚民」と呼ばれ続けるのだ。 そしてその子供達には、名前というものを与えられなかった。 |
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