おいしい蜜はないかしら
空は今日も澄み渡っている。雨上がりの良い天気。お日様の光が気持ち良い。
羽を広げてふわふわと漂う私。ようやく生まれてきた、私。
草原の上を走っているつもりだったのに、気がつくとそこは殺伐とした灰色の土。
私が通る道をあけもしないで、土の上を四角いものが通り過ぎてゆく。
奇妙な、世界
私がいるところの向かいには一本のかわいらしい花が咲いていた。あそこに泊まろう。
今日は、あそこでゆっくり休もう。
私の体には大きすぎる羽を目一杯に広げて、力強く羽ばたき始める。止まっていた木から飛び立つ。
四角いものは私が飛んでも変わらず走り続けていた。大きさは様々。たまに、四角くないものもある。
ふと地面のほうを見ると、土の上には白い線が引いてあった。四角いものはどうやら、その戦をはさんで方向を決めているようだ。
ぶつからないように、私は慎重に飛び始めた。
ゆっくりと、
ゆっくりと、ゆっくりと、
ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっく……
音はなかった。
疲れでふらふらと飛んでいた私の目の前に、黒く大きな影がともる。
声は出ない。悲鳴すら上げられない。
否応なしに迫り来る、黒。
恐怖が羽の動きを止めた。暗転、暗転。
薄れていく闇はかすれていって、けれど光は届かない。
あああああああああ、
あああああああああ、
今日は、あそこでゆっくり休む、 はずだったのに
「あ」
「なに?なんかあった?」
「いや、蝶が…」
「蝶?」
「うん、蝶が…あれ……?」
「なにさ」
「……なんでもない」
「変なの」
「……」
「どうしたのさ」
「なにが?」
「なんだかとても、嬉しそうだ」
「そうかい?」
「そうさ」
「……もう降りる準備をしなくちゃね」
「そうだね」
「……行こうか」
「…そうだね」
おいしい蜜はないかしら
おいしい花はないかしら
つぶれたって平気、ぶつかったって平気。
おいしい蜜はないかしら
おいしい花はないかしら
- end -
2006/09/07
今日バスに乗っていて、一羽の蝶々がバスのヘッドに突っ込んで行くのを見ました。
その蝶々は結構前からバスの周りをちらちらと飛んでいて、危ないなとは思っていたんです。
結局その蝶はなんとか抜け出せたようで、すぐにバスから飛び出て飛んでゆきましたが…
人間が作った機械が、様々なものに影響を与えてるんだと思うと少し切なくなりました。
このお話は、その実話。(会話部分は違いますけれど)
蝶々は生きています。
蜜を取って生きています。
願わくばあの蝶々が、
少しでも長く生きていられますように。
Harasu Uun