猫が一度鳴いた。
辺りは荒れ地が広がるばかりであった。街など見当たらない。
遠くの方に見える黒い点は、街であってものの残骸か。
猫が再度鳴いた。
高く可愛らしい声で鳴いたそれは、何もない世界に嫌に響き渡る。
白い毛が誇りで汚れることもなく、猫は凛として堂々と座っていた。
どっしりと構えた猫。月光が当たり、白く長い尾が幻想的だ。
……猫のすぐ傍には、小さな裸足がのびていた。
それはまだ幼い子供のものだろうか、どこか柔らかさを想像させ、小さかった。
繋がる体はやはり子供のようだ、顔を見ると少年であることが分かる。
少年は闇色の髪を冷たい風で揺らしながら、静かな寝息を立てて眠っていた。
猫がもう一度、今度は大きめの音で鳴いた。
「…………?」
鳴き声に気づいた少年は、ゆっくりとした動作で起き上がる。
頭がぼやんとしたが、特には気にしない。ただ目の前に座る猫が気になっただけ。
「……ここは?」
「にぁ」
場所を問えば、返されるのは猫の言葉。けれど少年は何故か満足したように、少しだけ猫に微笑んだ。
猫の尾の動きが止まる。
月光が雲で遮られたときだった。
「風が冷たいね」
肩ほどまでにある髪が、バサバサと風で揺れている。あわせて猫の尾も揺れるもんだから、なんだかおかしくなってしまう。
一度風が強く吹いた。
少年の髪が激しく揺れる。……彼が身にまとっていた灰色のローブが、舞うようにはためいている……猫はぼんやりとした黄色い 目でそれを追っているようで、少年は笑った。
「…………きみは」
少年は言葉を発しようとして、口をつぐむ。
猫が微笑んだ気がした。
荒れ地から誇りがまう。冷気を帯びた風がそれすらもすくいあげて行って、全てをなくそうとしているかのようだ。
何となく、静寂。
「僕は、誰なんだろうね……」
疑問。
疑問。
疑問。
至極当たり前であるはずのことが、分からない。
自分は誰なんだろう。目の前にいる猫は何なんだろう。
全てが曖昧で、少年はそれが心地よかった。
風がもう一度全てをさらう。
今度は強い砂埃が起き、雲が完全に月光を遮断した。
暗転。
少年は全てがどうでも良いとさえ思えた。
自分が何者でも、今ここに存在していることは変わりない。
ただどうしようもなく世界の全てが愛しくて、愛しくて、涙が伝う。
暗闇の中、少年は猫に向かって静かに囁いた。
「僕は、ここにいるよ」
- end -
----/--/--
ショート・ショートです。
極端に短いので何も出来なかった…というのが現実ですが、個人的には気に入った作品になりました。
少年と猫の不思議物語。
初めは長編予定だったんですが、何となく変更してショートに。
書いたことがなかったので…書いてみたかった、って言うのもありますけれどね。
でもどうだろ。これはショート・ショートでも特に短いタイプ…の様な気がします。
むむ……もう少し展開させてもよかったか。
何はともあれ、お読み下さってありがとうございましたv
Harasu Uun