全身の整形を決意したのは、一ヶ月前のこと。
入院をして、それまで醜かった自分の顔や体型を奇麗にして、最近ようやく自分の姿になれて来た。
鏡を見ると、奇麗な顔が私に向かっていつも微笑んでいた。
それまでの私は醜くて、不細工で、男の子にはいつもからかわれていたし、女の子の友達にもいつも馬鹿にされているようで嫌だった。
幸い家は世間一般で言う「お金持ち」で、使えるお金は使い切れないほどたくさんあったものだから、私はとうとう決意した。
整形を、しようと。
整形をして美しくなった私は、どこを歩いても様々な視線を浴びた。
それまで感じたことのない視線、好意の目。
街を歩けばたちまち男性に「ナンパ」というものをされ、それが嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。
仕事から帰って、いつものように化粧を落とす。
以前まで厚く塗りたくられていた化粧は、今はもう本当にうっすらと乗せる程度で、私はかがみの前でそれを落とした。
蛇口をひねり水を出す。
冷たい水が勢いよく飛び出して、シンクにあたってははね飛ぶ。
ふと、鏡を見た。
そこに映ったのは自分でも惚れてしまいそうな美しい顔。
自分で言うのもおかしいけれど、緩やかな曲線を描いたその顔はやはり、誰が見ても「美しい顔」だった。
思わずうっとりと見つめながら、私は無造作に蛇口を止めた。
きゅ、という軽い音がして、水が止まりそれと同時にはねていた水しぶきも止んだ。
ふ、と暗くなる。
電球が切れたのだろうか、それまで光に満ちあふれていた洗面台は、やけに気持ちの悪い闇に包まれて、視界が失われた。
かがみだけが、かがみだけがぼう、と浮かび上がった。
『………ねぇ、どうしてあたしを捨てたの………?』
ふとどこからか声が聞こえて、私は振り返った。
「誰!?どこにいるの、出て来なさいっ!」
思わず叫ぶも、返答はない。
闇はいつまでたっても闇のままで、かがみはいつまでも私の目の前でゆらゆらと揺れるように浮かんでいる。
『…………ねぇ』
今度は先ほどよりも近くで声が聞こえて、私ははっとして前を見た。
かがみだ。
かがみに、“私”が映っている。
しかしそれは“私”ではない。“あたし”なのだ。
鏡に映った顔は、誰が見ても美しいと思う顔。そして、誰が見ても醜いと思う顔。
整形前の私の顔が、かがみの中でニヤニヤと奇麗な笑顔を作って笑っていた。
「ひっ!」
瞬間的に、背筋に冷たいものが走った。
怖い。
かがみから目をそらそうとしたが、私の瞳はかがみの笑顔に釘付けになり、離せない。
やがて笑顔の横から、ぬるりとした灰色の手が這い出たのを私は見た。
かがみから手が出るなんて、おかしいに決まっている。
これは何かの幻覚だ、目が覚めろ、目が覚めろ。
灰色の手は私の頬を優しく撫で、そうして引っ込んでいった。
頬に恐らく手に纏わりついていたのであろう、ぬるりとした粘着質の液体が着いたのを感じる。
怖い。
笑顔は段々とぐにゃりと形を変え、今の“私”のそれに変わっていく。
ちかちかと視界が変わって、色が変わって、横から声が聞こえた。
「お嬢様、大丈夫でしたか?」
家で雇っている家政婦の声が耳に届いて、電気が着いたことに気がついた。
私はいつの間にか腰を抜かしていたようで、目の前にかがみはない。
「だ……大丈夫」
震える声で言葉を出して、恐る恐る体を起こす。
こわごわと盗み見たかがみの中には、恐怖で怯える美しい顔が…整形後の“私”の顔が、そこにあった。
- end -
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ショート・ショートです。
かがみです。笑
突如浮かんだもの。個人的に満足な出来になりました。
でも序盤が少し気に入らない…かな?(じゃぁ満足じゃないじゃん
世の女性達が整形、整形、と簡単に顔を変えてしまうので、何となく“親からもらった体は大事にねv”という気持ちを込めてみたり。
友達が男子に「整形しろよお前〜」とからかわれていたのもネタの一つかも。
Harasu Uun