どうしたかったわけじゃない。ただいつまでたっても消えることのない染みついたゴミの匂いとか、散らかったままの汚れた服だとか、黒く塗りつぶされてもはや使えない何かの教科書だとかが、ひどくうっとうしく感じただけだった。
部屋の真ん中を開けるようにぐるりと散らかった部屋。分別すらされず大きなゴミ袋に詰め込まれたゴミの山を眺めながら、私はその部屋の中心に座っていた。
こうしてみると世界の中心にいるようだ。世界の中心にいるということは、私は果たして神なのだろうか。ばからしいことを考えながら、窓から入るそよ風に髪をゆだねる。夏の日だというのに部屋の中はちっとも夏らしくない。それは多分、この部屋が汚れたままだからなのだろう。
片付けようとは、思わなかった。
ただ、汚れた部屋が変わるのが酷く息苦しく思えて、生理的に受け付けなかっただけなのかもしれない。それとも、純粋に、あちこち動き回って部屋をきれいにするのが面倒くさかっただけなのかもしれない。どうせ二・三日もすれば元の通りになるのだろう。それならば、現状維持に努めた方が賢明というものではないか。そんな考えがちらりとでも横切らなかったといえばウソになるから。
世界は変わることなんてない。どうしてか知らないけれど、私はそう思い込んでいた。
そう、この部屋のように、変わることなく汚れたまま。はじめは美しくきれいだった世界が、気がつくと汚れてしまっている。分別されないゴミの山。塗りつぶされた教科書。脱いだままの洋服。
敷かれたままの布団の上で、かさかさと黒い虫が這っていた。私は何をしているのだろう。
もしかしたら死んでいるのかもしれない、そんなことがふとよぎった。
死んでいるのに気付かずに、世界は変わることなんてないんだと思い込み、だれにも見つけられずにこんな所で座っているのではないかと。ただゴミの山だけが私を見つめ、黒い虫が私を見つめ、窓の外から入る光が私を照らす。季節季節で柔らかさを変える光だけが、この部屋に変化をもたらしていく。
どうしたかったわけじゃない、ちがうんだ。再度心の中で呟く。呟きは呟きでしかなく、現実になろうはずもなく、私はぼんやりとゴミを見詰めたままだけれど。
気がつくと黒い虫は死んでいた。おぞましい足をぴくりと一本痙攣させて、布団の上で事切れている。―――これが、変化か?
何をしているのだろうと思った。私は、この部屋で、いったい、何を。
風が一陣強く吹いた。吹き抜けていく風に髪を取られる。すべてが抜き取られる感覚。黒い虫が勢いで飛んでいった。飛んでいった先に食べ散らかしたスナック菓子の袋。背後を見ずにそんなことを考えた。だって世界は変わらないもの。少なくとも私のこの部屋は、変わるわけがないもの。
よくわからなかった。
変わるとはどういうことだろう。変化とはどういうことだろう。
死んでゆくことか、モノが動くことか。時の流れることか。
恐らくそのどれも当てはまるのだろうし、どれも当てはまらないような気がした。酷く、暑い。
ただ黒い虫は死んだのだ。風が吹き、何枚かのプリントが動いていったのだ。そもそも風が吹くということは、時が進んでいたのだ。
私は世界の、私の世界の中心に鎮座しながら、変化を止めるすべを知らない。ただ流れゆく時に任せ、死んでゆくものを受け入れて、変化を見つめることしかできない。否、私自身の変化すらとめることができないのだ。吹き飛ばされた魂は帰らない。
世界のうっとうしさは変わらない。変化のないように見えた世界は変化だらけだ。何気ないこと一つ一つに嘆きを歌う私がいる。
どうしたかったわけではないのだ。本当に。ただ、しみついて離れないゴミの匂いが、脱ぎ捨てられたままの洋服とか、黒くつぶされた教科書とか、それらが少しずつ変化していくことがうっとうしかっただけ。
存在するものは常に変化を繰り返す、そんなことわかっていたつもりだった。しかし私の世界にだけはそれは当てはまらないと、そう思っていたはずなのだ。
一番うっとうしくて一番変化していたのは、たぶん私自身だ。
汚れた部屋の神様として、世界の中心に鎮座しながらそう呟いた。
黒い虫は、もはや這うこともしなかった。
- end -
2008/04/28
脱・スランプのために書いてたもの。
思ったことを書いてったら支離滅裂・意味不明になっちゃったけどまあいっか☆的なノリで書き上げたのは内緒です。
このお話…?というか散文には、もともと元になる詩がありまして。
そちらも後々poem等で出そうかなと思っていたのですが、タイトル何にしようって迷ってたらこっちが出来上がっちゃったわけです。
変化のない日常、汚れたままできれいになることのない部屋、死んでしまった黒い虫。
日常にあるもので非日常的な世界が表現できていたらいいなあ、と、言い逃げしておきます苦笑
Harasu Uun