あねとおとうと



あねとおとうと

「あねえぇえ!!」
 と、叫んで入ってきたのは弟だった。呼ばれた姉は優雅に紅茶を啜り、ちゃぶ台に乗った煎餅に手を出したところだった。
「あれ? 弟じゃん、早かったね、どしたの?」
 せんべいをバリバリ食べながら尋ねる姉に、弟は語気を強くする。「どうしたもこうしたも!」弟は先刻デートに出かけたはずで、帰宅にはあまりにも早かった。
「あれほど夢ちゃんたぶらかすなって言ったのに!! 言ったのに!!!」
「そだっけ?」
 ていうか夢ちゃんてだれ? 続けられた言葉に弟はがっくりと肩を落とした。
「御伽夢子ちゃん! 俺のクラスの女の子でこの前うちに遊びに来た!」
「あー、あのやたらとファンシーな子」
 まくしたてるように言うと、姉は件の少女を思い出したようで、紅茶を一口ずずりと啜った。
「でもあの子は特にたぶらかした記憶ないんだけどなぁ。ほら、前の望ちゃんとか愛子ちゃんとかキヨちゃんは好みだったからたぶらかしたけど」
「自覚なしかよ!! ていうかキヨちゃんも!? どーりでフられるのが早かったわけだ畜生!」
 姉の向かいに座り込んだ弟は、ダン、と勢いよくちゃぶ台を叩いた。はずみで煎餅が音を立て、姉がそれに眉をひそめる。
「煎餅にあたるなよ」
「大体あんた無駄に顔がいいんだから、俺の彼女が遊びに来る時はどっか出かけろっていつも言ってんじゃねえか!! 俺の家に来る女の子全員があんたに惚れてアブノーマルに走ってんだよ! どうしてくれんだ! つーか彼女たちの親にどう謝ればいいんだ!!!」
 姉の言葉を無視して憤る弟に、姉の眉間にさらに皺が寄った。
「おい聞いてんのか! 煎餅にあたるなよ!!!」
「うるせえよ!? なんだよ煎餅ってあたってねえよ!!」
「うっさいな、さっき煎餅動いたじゃないか!! せんべいに謝れ!!」
「なんで!? 何でそこ俺が謝るの!?」
「あ・や・ま・れ!!!」
 姉は言いながらずい、と煎餅の入った器を前に出す。ひるんだ弟は、姉の眉間のしわを見て、それから煎餅を見て、しぶしぶ謝った。
「……あたってどうもすみませんでした」
「声が小さい!」
「ああもう! すみませんでした!!!」
「心がこもってない!」
 瞬間、姉は持っていた煎餅の器をばん、とちゃぶ台に叩き置いた。はずみで煎餅が飛び出して、ばらばらと床に散らばる。
「……」
「……」
 二人は無言で煎餅を見、それから、
「大体あんたが女の子連れてくる方が悪いんでしょ。惚れる方が悪いのよ惚れる方が」
「惚れさせるほうだろ!! 自覚しろよその無駄に男前な顔を!!」
 なかったことにした。言い合いながら律義に煎餅を戻す弟と、それを眺めるだけの姉。姉はやれやれ、と溜息をつくと「とにかく、」と仕切りなおした。
「今回の件についてはあたしの関与なし。一切なし! 確かに挨拶されたから愛想笑い返した気はするけど、それであんたをフるような女ならいっそ付き合わない方がましよ」
「まあ確かに夢ちゃんもほかの女の子たちも気が多い子たちだったって思うよ!? だけどあんたの吸引力はマジ半端ないんだって! 一体何人の女の子が我が家を張ってると思ってんだよ!?」
「五十三人」
「数えたのか!! しかも数えたのかよおまえ! 自分で!!」
 弟は落ちていた肩をさらにがっくりと落とし、未だに紅茶をすする姉を恨めしく見る。
「ま、今度はちゃんとあたし好みの女の子を連れてくるんだね」
 姉はそんな弟に優しく声をかけ、煎餅を差し出した。「食べる?」弟は肩を震わせると、彼女の真意を悟る。

「……故意か!!!」

 いらねえよ、と煎餅をたたき落として、弟は足音荒く部屋を出て行った。遺された部屋で姉は紅茶を一口啜る。それから、
「ま、よっぽどの子じゃないとあげるつもりはないからね」
 と、弟が叩き落とした煎餅をかじった。

- end -

2009/09/12

スランプ時に描いたコメディ?チックなもの。
男前女好きの姉と、そんな姉に振り回されるかわいそうな弟です。
なにが書きたかったって、気の向くままにコメディ(だと思われる)ものを書いただけなので、何ともいえないのですが……
あ、あえていうならば姉のブラコンぶり?
こんな姉弟関係がとても好きです(ニコ

Harasu Uun