カレーの匂いがしていた。
朝起きると部屋には誰もいなくて、散らかった部屋は散らかったままで。開け放たれた窓からは、少し冷たい風がしきりに入ってきていた。乱れた掛け布団は、中心から少しずれたところに山ができている。
その山がもぞもぞと動き出し、中から頭が現れた。
「……寒い」
一言呟くと、それは起き上がる。
……少女だろうか。
赤色のTシャツを着ていて、青いラインの入った白色のパンツ。 なんともラフな格好で、少女は布団から這い出た。
読みかけの本やゲーム機、教科書、脱ぎ散らかされた洋服。
部屋全体を見回すと、開かれたままで放置されている、銀色のメタリックな携帯が見つかった。少女はそれを拾い上げると、とりあえず現在の時刻を確認する。
10時37分。
待ち受け画面に示された時刻どおり、太陽は真上よりも少しずれたところに位置していた。
そして少女は、窓が開いていることに気付く。どこからだろう、風に乗ってカレーの匂いがしていた。
(カレーが食べたい……)
ぼんやり思いながら、寒いので窓を閉める。
風によって暴れていたカーテンは動きを止め、静かに窓にへばりつく。少女はそれを引いてカーテンを開け、まとめて止めた。そうしてから、少女はやることがないことに気が付く。
散らかった教科書やら服やらを跨いで歩きながら、何となくタンスの前にいき、引き出しを開ける。
「…………やめた」
中に入っていた色とりどりの洋服に目移りしながらも、少女はぱたんと開けた引き出しを閉じた。
出かける予定もないし、もう半日近くすぎてしまっては意味がない、と考えてのことだ。最もそれは着替えることに対しての面倒臭さを紛らわした言い訳で、実際はただ面倒くさいから、なのだが。
ふと、カレーの匂いが残っていることに気が付いた。
独特のにおいが、少女の食欲を促進させた。それに伴って少女の腹は奇妙な音を発し、誰が聞いていたわけでもないが、少女は少し顔を赤めた。
とりあえず、自室を出て奇麗に掃除されている居間へと向かう。
奇麗好きな少女の母は、汚いところには決して入らない。故あって、少女の自室には決して入らない。
少女からしてみれば、入って掃除をしてくれれば一番いいのだけど。
居間につながっている台所へ足を進めると、コンロの上に3つの鍋が置きっぱなしにされていた。適当に一つ、一番手前にあった鍋のふたを開けてみる。コンロに置いたままの状態の鍋には、いつも何らかの料理が入っているからだ。
が、それが数日前の残り物だったり、嫌いなものだったりするときもあるわけで。
手前の鍋の中には、数日前から食べ回ししている煮物が入っていた。だんだんと野菜の色もひしゃげた感じで、あまりおいしそうではない。それでも、料理されたばかりの頃は色鮮やかでとてもおいしそうだったのだけれど。
二つ目に、大きめの片手鍋のふたを開けてみた。
「あ、これかぁ……」
中には、鍋の半分ほどまであるカレー。
おそらく今日作ったものだと思われるが、作られてから時間が経っているようで、カレーの上っかわに膜のようなものが張っていた。どうやら、先ほどから鼻をくすぐるカレーの匂いはこれだったようだ。
最後の一つもあけてみようかと迷ったが、やめておく。とりあえず、このカレーで腹の足しにはなりそうだったから。
少女は鍋に火をつけ、近くにあったお玉を適当にとって中に入れた。
カレーは、火をかけている間に目を離したら、すぐにこげてしまう。だから常に、お玉かなにかを入れてかき混ぜていないといけないのだ。
少女は腰に左手をおいて、右手で鍋の中をかき混ぜはじめた。
固まっていた膜が、段々と熱によって柔らかくなり、下の方のカレーと同化する。それまでほとんど個体に近かったカレーは、相変わらず美味しそうな匂いをたてて今度は液体に変化していく。
少女は少しうれしくなって、鼻歌なんかもうたったりして。
しばらくそうして鍋の中を適当に混ぜていると、沸騰しはじめたのか、淵側の方から泡が出始める。少女は火を止めた。
中火程度の火力だった火はすぐに消え、とたんに鍋の淵から蒸気が出された。それが顔に当たったが、先ほど布団から出たばかりの少女にはむしろ暖かかった。
カレーをよそおうと思い、後ろにある食器棚から勝手にカレー用と決めている皿を取り出そうとした。
がしかし、途中でやめる。
ふいにコンロのすぐ隣にある、あまり大きくはない炊飯器に目がいった。
「ご飯……あったっけ」
迂闊だった。
ここでご飯がなければ、カレーを温めた意味がない。
少女はご飯如きに少し神妙になりながら、ゆっくりと炊飯器のふたについている、開閉ボタンを押した。
ふたは少し間を置いてからぱかりと開き、中からやはりというか、蒸気が舞い出る。それと同時に白米の若干甘い匂いも流れ出、少女はほ、と胸を撫で下ろした。
炊飯器の中をのぞくと、予想どおりご飯が残っていた。しかも茶わんによそえばちょうど一人分くらいであろう、ちょうどいい量が。
きっと、母がなかなか起きてこない少女のためにわざわざ残しておいたのだろう。
少女がカレーを温めて、食べられるように。
何となく少しだけ母をありがたく思ってから、少女は冷めないように炊飯器のふたを閉めた。そして食器棚から皿を出そうと振り向く。
ごんっ
在り来たりな音とともに、少女はその場に蹲った。
「……いっっってぇえ〜……!」
額を押さえながら、開け放たれていたそれを睨む。食器棚の扉は、なんとも微妙な感じに開いたままだった。
いや、少女が閉め忘れたというべきか。
先ほど皿を出そうと開けた際、閉め忘れたのだ。だが何となくそれを認めるのはしゃくだったので、少女は扉を睨みながら、額を押さえながら一言呟く。
「くっそ、閉まっとけよ、この扉め!」
……言って、空しくなったことに気付く。
少女は一つ溜息をつくと、未だ微妙な感じに開いたままの扉を完全に開け、上の方から“カレー用の皿”を取り出した。頑丈な感じの皿なのでそれなりに重さがあり、腕を完全にのばして皿をとった少女は少しよろめいた。
そしてよろめきながら炊飯器がある方に向きを変えようとする。
ごんっ
また鈍い音がして、少女は思わず皿を落とした。
気にせずに、両手で今度は頭の後ろを押さえる。
が、
どすっ
何やら足の指先に多大な衝撃(大げさ)が加わり、少女は声にならない悲鳴を上げた。
涙目になりながら足下を見ると、そこには落とした皿が。
幸い皿自体は割れていなかったものの、自分の足が割れそうに痛い、と少女は心の中で毒づいた。
そして再び、今度は完全に開ききっている食器棚の扉を睨むと、
「ちゃんと開ききってなかっただろっ!お前!」
が、もちろん扉から返答がくるわけもなく。
再度空しい気持ちに襲われながら、少女はもたもたと皿を持ち上げた。
なんだかろくなことがない一日だなぁと、まだ起きてから数時間も経っていないのに考えて。
とりあえず炊飯器を開けて、中に入っていたご飯を皿に全て入れた。元から付いていた『保温』ボタンを消すと、電気の使用箇所がなくなったのか、炊飯器の中から少しの機械音が聞こえ、止まった。
温めたはずのカレーは少し冷たくなっていて、少女はやっぱり空しくなった。
- end -
2005/04/12
いかがでしたでしょうか。
これは某小説投稿掲示板に投稿した作品です。
駄作過ぎてコメントはもらえませんでしたが(爆
いえ、たまたまこれ書いた日の夕食がカレーで、しかも温めなきゃいけなくて、何となく……(ぇ
まぁ、いいじゃないですか!
ちょっぴりギャグ要素あり。
全然面白くないけどさ(苦笑
感想、ご指摘、アドバイス等、お待ちしておりますね。
Harasu Uun