だからあたしは飴が嫌いだっていっただろ
だからあたしは飴が嫌いだっていっただろ
春うらうらにして〜暖かな日が続いております
………わけがネエよボケ。
今現在の季節は秋。
どこをどうとって春までタイムスリップしたのはわからないが、秋では考えられないほど暖かな気候が続いているのは本当だ。
あたしの名前は横原雨乃。
天済学院新体操部部長、学年首席の優等生だったりする。
ちなみに突っ込み担当………って何言わすんじゃワレ!!
まぁ、よくわからない一人乗り突っ込みは置いておいて(虚しいだけだし)、あたしは今現在学校から帰宅後(正確にはまだ帰宅してない)、何とも入りたくなぁ〜い自宅の前に突っ立っていた。
いや、それは私の気分的にというかそういう簡単なものじゃなくて、家自体が発するオーラがなんとなぁく入りたくなぁ〜いオーラを醸し出していたりするからだ。
それにはまぁ、一応原因があったりするのだが……。
「アメ姫ぇ〜〜〜!!待ってたヨォォオオ!!」
玄関の扉が思い切り、且つものすごくウザい者を放出しながら開ききった。
あたしはほぼ日常通りのそのパターンに、眉一つ動かさずに飛び出して来た“者”をさ、っと避けた。
それは人だ。
いいや、違う。
正確に言うとあたしの兄とも思いたくない物体……むしろ人間なのかどうかさえ疑わしいシスコン野郎だ。
そしてそれ(もはや物扱い)はあたしを通り過ぎて向かいのお宅の塀に激突して、少し大きめの穴を開けてからがばりと起き上がった。
「ああ、これも新手の愛情表現かいっ?アメ姫………!」
起き上がったのは艶のある奇麗な黒髪、同色の瞳、整った顔立ちには思わず奪いたくなる様なく……げふんげふん、それに見合った薄ピンクの唇、妹のあたしが言うのもなんだが、どこをどうとっても美青年……な男性だった。
それが、あたしの兄、横原遇実である。
ちなみに現在二十歳。彼女いない暦二十年を誇る変駄目人間参号だ。
ちなみに壱号はあたしと兄貴(兄貴なんて思いたくもないけれどっ!!)の父親である唐丸(現在四十五歳)、弐号が母親である千代子(現在四十七歳)だ。
そんなことをぼんやりと思い返していたら(またの名を説明していたという…)、兄貴がのそりと歩き始める。
「アメ姫ェエエエ…………今日こそは俺の愛っ!その体でしっかりと受け取ってもらうゾォオオオ!!!」
そう叫びながら、兄貴があたしに向かって突進してくる。
あたしは何となくうんざりしながら、ああ、今日も貞操の危機か……なんてのんきな事を考えつつ、思い切り足を上げた。
スカート??ダイジョブダイジョブ、下に長めのスパッツ着用済☆
新体操部で鍛えた柔らかさはだてじゃないのよっ!
そして兄貴が猛スピードであたしのこか………ごふん。あたし目掛けてくるのにタイミングを合わせ、思い切り振り下ろした。
ごすっ
鈍い音がして兄貴が沈む。
しばらくは起きてこないでしょう。
向かいのおばさんが呆れた顔で塀を見ながら、「いつも大変ねぇ、雨乃ちゃん…」と同情の声をかけてくれたのに笑顔で「慣れてますから。それより塀壊してすみません…」と応えつつ、あたしは先ほどとまったく同質の憂鬱感に浸りながら、開かれた玄関をくぐったのだった。
ぶっちゃけ、あたしは全然凡人だ。
ぶっちゃけ、あたしは唯一のまともだ。
ぶっちゃけ、あたしは学力と体の柔らかさを除けば全てが平均並みだ。
……………だけどさ、あたしの家族はみんな奇人変人なんだ。
玄関をくぐると、やはりというかなんというか、大量の服が散乱していた。
大量と言って、普通思い浮かべる数は十着ほどが限界だろうか。
だけど残念。あたしの目の前には、そんな期待を見事に裏切る着数の服が重なってたりする。
服が絨毯と化している………
おかしいだろコレェ!と言う罵声が聞こえてきそうなほどの量。
その数およそ三百五十二着。
なんでか知らないけど(知りたくもないけど)デザイナーをやっているあたしの父は、女性用の服を主にデザインしている。
……そして今までデザインして来たそれらを全て我が家に持ってくる。
それなりに有名な会社名だけに、かなりの着数がある。
あたしはうんざりしながらとりあえず手近な所に鞄を置いて、玄関からはみ出している服を集め始める。ついでに廊下にはびこっている服も手早く集め、玄関に常日頃置いてある洗濯籠に押し入れた。それなりに大きな籠なので、結構な量が一度に入る。あたしは今まさにその大きさに感謝しながら、なんとか足の踏み場を作りつつ服を籠に投げ入れ進んでいった。ちなみに鞄は置いたままだ。
リビングまで行くと、一番初めにウサギの耳が目に入った。
え、ウサギの耳…………?
なんでウサギの耳なんだと思いながら自分の視界を下げて、何事も無かったかのようにまた上に上げる。
「さぁて、今日の夕飯は何にしようかなぁ〜…」
「ちょっと待てや」
なんだかおかしな声が聞こえた様な気がしたが、何となく…というか絶対に関わり合いたくなかったので聞こえなかった振りをする。そのまま籠を持って洗面所に消えようとした。
が、それも虚しく。
「待ってっていってんだろぉがワレっ!!」
ものすごい不本意ながらスカートの裾を思いっきり引っ張られ、それと同時にすごく理不尽きわまりない言葉で何者かに呼ばれたあたしは、仕方なくその場に座り込んだ。
「何か用かよ、クソ親父」
座り込んだ(というよりはしゃがみ込んだ)おかげで視界に入ったバニー・ガールのコスプレをした父親に軽蔑の目を向けながら、そのふざけた耳を引っ張った。
「大体なんだよ、これ」
するとクソ親父は何故だかわからないが少しだけほほを染めて、照れ隠しにも程があるほどの乙女動作ではにかみ笑いをしながら言った。
「え?いいでしょ〜。新作のイメージ作りなんだけど……思いのほか似合っちゃって☆」
これのどこが似合ってるのか誰かあたしに教えてください
ああ、頭痛がして来た…。
とりあえずあたしは何故だか絡み付いてくる親父を押しのけて、思い切り立ち上がる。瞬間、親父がああ、と妙に艶のかかった声で嘆き、あたしの足に文字通り絡み付いてきた為速攻で逃げた。
それに、そろそろ玄関先の変態もやってくることだろう。
そんなわけで、親父の頭から思わずもぎ取って来てしまったバニーガールの耳を右手に握りしめながら、あたしはちょっとだけ泣きそうなのを我慢して全速力で自室に駆け込んだ。
駆け込み寺のごとく。南無。
自室に入ってようやく落ち着く。手にしていた耳は入り口の傍にあるゴミ箱に捨てた。
自分に奴らの血が混じってると思うと本当に自殺したくなるが、まぁ、その他の親類の方々は至って普通の方達なので良しとしよう。
……以前父方の祖母に聞いた話なのだが、父は一族の中で一番初めに出た変態・変人なのだそうだ。
幼い頃からコスプレとか変なことに興味があり―――いや、コスプレを全否定するわけではないが、何となく自分の親がやっていると思うと嫌悪感を抱く―――、さらに昔はゲイだったそうだ。
それから考えたら、何故母さんと出会って結婚したのかいよいよ本格的にわからなくなるが、何にせよ、「自分の父親がまさかゲイでした☆」なぁんて下手な落ちにならなくて本当によかったと思う。
はぁ、と小さく溜め息をついてから、ふと学習机を見やった。
あたしの学習机は変駄目人間参号こと兄貴のお下がりだ。かなぁり不本意極まりないが、押し付けて置いていき、あたしの新しい机を兄貴がかってに奪っていったので仕方ない。
なんだかんだ言って、あいつに逆らえないのは事実なのだ。……兄だから。
そうでなかったら誰があんな変態の机なんか使うかぁあ!!
…………って、息切れしてる場合じゃなかった。
心中の独り言のはずなのに息切れしてるってどういうことだよ、これ。
何か飲むもの、とリビングに出ようとして、止めた。
何故なら扉の向こうで「お、バニーちゃん、今日も可愛いコスプレしてるなぁ!」「やっぱりそう思うかい?いやぁ、遇実は本当に素直な子だなぁ」「それよりアメ姫は?」「あー、なんでかわからないが全速力で部屋に駆け込んでったから、行かない方がいいと思うぞ?」なんて会話が繰り広げられていたからだ。
ドアの取っ手にかかっていた手を下げて、あたしは仕方なく机に向かい直した。
「勉強でもしようかな……」
こんな変な家庭だと、子供の育ち方はきっと二パターンあるんだろう。
兄貴みたいな、自分も堂々と変態の仲間入りをする育ち方をするか、
あたしみたいに、まともになりたいがために勉強に精を出す育ち方をするか。
まぁ、あたしはおかげで学年首席をキープしてるし、一応のまとも人間だから何も言わないけど。
仕方なく学習机の椅子に座って、ぼぉっと天井を見上げる。
三秒で飽きる。
仕方ないので窓の外を眺めてみる。
……三秒で飽きる。
さらに仕方が無いので、観念して教科書を開く。
あたしはほけー、と教科書を流し読みし、リビングから聞こえてくる糞恥ずかしい会話を聞いて聞かぬ振りをして、じ、と集中力を高める。
………しかし、喉が渇いた。ついでに小腹も減ってくる。
やがてそれも飽きて、あたしはパタンと教科書を閉じて脇によけた。ふと、机の上に何かの菓子袋があるのに気がついた。
オレンジを基調としたその袋はかなりの大きさで、中には個別包装された固形物質が何個も何個も含まれている。その菓子袋に見覚えがある訳ではなかったけれど、それでもあたしのお腹は空腹には勝てなかった。
ゆっくりと菓子袋に手を伸ばす。
ガサガサと揺れて、袋はいとも簡単に開いた。
中にある固形物質は、赤や黄色やらオレンジやら、様々な色であたしを待ち構えているようだ。
不思議なものだ。
何かもよくわからない固形物質を見ただけで、あたしの口内は唾で一杯になり、まるでヤクを求める中毒者の様に、命に必要なものを得るかの様に、気づいたらあたしは必死になって袋から固形物質を取り出していた。
見つめて、微笑む。
何も言わずに一目散に袋の端を持った。
力を入れて袋を開く。
袋の端から段々と裂け目が出来る、袋が完全に開こうかという時…。
刹那、あたしは青白い光に包まれた。
「な、なに!?」
思わず声を上げるも、リビングから駆けつけてくる音はない。
光に目が眩む中、ぼんやりと数日前貞操やら命やらを死守するために自分の部屋を完全防音自動ロック式にしたことを思い出した。
変な所で落ち込む。
『お前は横原雨乃かい??』
そんなときだった。
声が聞こえたのは。
脳内に響く声はやや高めの音で、甘ったるい、ねちっこい質を持っていた。その大音量さにあたしは思わず耳を塞ぐ。
やがて光も引いて、あたしはぱちくりと瞬きをしながら部屋を見回した。声はもうしていない。
何だ気のせいか。
気のせいでなくてもそういうことにしておこう。
というわけであたしは早速中の固形物質を食べようと、手元を見た。
…………あれ?
いやいやいやいや。
待てよ、そんなはずはないんだ。うん。
もう一度よく確認するんだ、頑張れあたし!
……………やっぱりだ。
ない。
何がないって、手にしていたはずの謎の固形物質の袋がないんだ。どこにいったんだろ、床に落としたのかな?
とりあえず辺りを見回す。
クリーム色のベッドカバーがかかっているベッド。異常なし。
CDコンポや趣味の純文学やらライトノベルやらが入っている大きめの本だな。異常なし。
クローゼット付近。異常なし。
扉付近。異常なし。
何だぁ、何もないじゃないかと体を元に戻して、やはり袋は見つからなかった。
が。
あたしは見つけてしまった。
いや、本当はどこかで見つけていたのかもしれない。とにかく一目見た瞬間、見つけたくなかったと見つけた自分を呪った。
あたしが見つけた“それ”を見つめる。
『わたくしは“アメノカミ”。“飴嫌い”の横原雨乃に飴を食べさせるために来た』
“それ”は掌に乗る様なサイズで、長めの髪を後ろでお団子にまとめていて、そのお団子に簪なんかつけていて、露出度の高いコルセットの様な服を着て、二十重ねのスカートをはためかせて、二の腕辺りからある手袋をゆっくりと取ってあたしに握手を求めた。
……何だろう……。
ちびっこい人なのか人じゃないのかわからないそれは、宙をふよふよと浮きながら勝手に自己紹介をした。とりあえず生返事。
『して……横原雨乃はどこだ?』
それはきょろきょろと辺りを見回した。何を探してるかって、あたしを捜してるのか?
「雨乃は……あたしですが?」
何か、という様な挑発的な態度で臨んでみる。
それはあたしをまじまじと見つめ、そして一言、言ってはいけない禁断の一言を言ってしまった。
「………………男?」
「誰が男かぁあああああ!!!!!」
あたしは“アメノカミ”と名乗ったそれをがしりと掴んで、耳元で大音量で叫んだ。
アメノカミの体は思い切りのけぞって、目は心なしぐるぐるしている。
『わ、悪かった………』
あたしはアメノカミの蓄えられた豐乳を盗み見ながら恨めしそうに睨む。胸があるということは、アメノカミは曲がりなりにも女なのだろう。
………そうなのだ。
自分で言うのはものすっごく屈辱的且つ虚しいが、あたしはこれでもか、というくらい胸がない。
Tシャツにジーンズを来てあるけばたちまち女の人にナンパされるし、そんなラフな格好で女の子と歩けば確実にカップルと間違えられる。
体系もさながら、背丈も女子の中では高い方で、何の遺伝か顔もやや男前だったりするもんだから、小さい頃は暴力を振るった訳でもないのに男女といって虐められた。
それでも一度だけ、大量のパットを使って奇麗なドレスを着込んだことがある。
学校祭の劇で使用したのだが、そのときばかりは皆「うん、女装コンテストで一位になれるよ」といって褒めてくれた。(それは褒めてないよ……
とにかく、あたしはもうひと睨みアメノカミに浴びせてから彼女を静かに戻した。
「で?あたしに何の用?」
あたしを男と間違えたからもう敬語はなしだ!あんな奴っ!ため口で十分っ!!
アメノカミはにこりと微笑むと、あたしが先ほどまで手にしていた固形物体の袋を差し出した。
『これ、実は飴なんだ』
彼女は一言で言った。
……………は?
その固形物体は袋の上から触った限り、絶対に固くはなかったし、どちらかというと肌触りがよかった。例えるなら水飴に弾力性を加えた感じ、かな。そもそもあたしは飴嫌いだから、飴だったら手に取る分けないし。こんなのが飴だったら世も末って感じだし。
「うん。ないわ。あり得ない。うん。嘘嘘」
しばらく考えてからとびきりの笑顔を作ると、あたしはアメノカミをがしりと掴んだ。ついでに飴らしい物体の大量に入った菓子袋もつかんで。
机の横にある部屋の窓を開ける。風が少し冷たかった。
「じゃ、さよーならっv」
至極楽しそうに笑いながら、私はアメノカミと菓子袋を右手で無理矢理掴んで、思い切り手を振り上げた。
『………へ?』
アメノカミの間抜けな声が聞こえた気がするが、気にしないでおく。
右手を思い切り振り下ろすと同時に掌をぱ、と開いて………
『うわあああああああぁぁ!!!』
どこか尾を引く叫び声とともに、アメノカミと飴もどきの菓子袋は星の彼方へと消えていった。
しかしなぁ……腹減ったしなぁ………でも……リビング行きたくないしな〜……
一人右往左往する。
いっそのことあの飴もどきでも食べておけばよかったかな?
……いやいや、飴なんて所詮凶器だし。あなどっちゃいかんよ、うん。
そもそも、あたしが飴嫌いなのには理由がある。
もちろん、あの何となく舌に残るざらざら感とか、変に甘ったるい所とかも嫌いなのだけれど、一番の理由はあれだ。
THE☆ト ラ ウ マ
どんなトラウマかって、そりゃすさまじいトラウマだよ。
小樽辺りかな?どこか忘れてしまったけど、どこかの名産物に『流氷飴』だかなんだかって名前の流氷に見立てた飴がある。(うろ覚えだけど
その飴は流氷に見立ててるだけあって、かなりでかくて尖ってたりする。
それをだ。
まだ小学校に入学していない小さなあたしに、その頃から変人且つ変態だった兄貴は十個ほど口に無理矢理押し込んだのだ。
さすがにあたしでもそこまで突っ込めないさ。
喉を詰まらせたあたしは即病院送りとなり、医者には「そんなに飴が食べたかったのかい〜?ホォラ、これを上げよう〜」なんて小さなアンパンマン飴をもらい………!!
あの時の屈辱ったら………無かったね、うん。
そんな訳で、あたしの飴嫌いの元々の発端は兄貴にあるのだ。
ついでに言うと飴への憎悪は兄貴への憎悪と等しかったりする。
うぅ、飴について考えるだけでも吐き気がしてくるよ………!
『なるほど、お前はお前の兄貴が原因で飴が嫌いなのだな』
…………あれぇ、なんか今変な声が聞こえた様な気がしたよぉ?
「ってうわぁ!!吃驚したぁ!!!」
何故だろう……うん。本当になんでだろう……。
あたしの目の前には、放り投げたはずのアメノカミがふよふよと浮いていた。
ちなみに飴もどきの菓子袋も健在である。
しかもなんか人の心を読まれた様な………気のせい?気のせいだよね、あっはっは〜☆
『気のせいではないぞ。わたくしは“世の飴を統べるもの”。そして“世の飴を生み出すもの”、製造者。人間の心を読むなど朝飯前のことだ』
アメノカミは浮きながらそう言って、あたしの顔をまじまじと見つめる。
『ふむ……良い顔をしている』
は?とあたしが疑問に思うのも束の間。
アメノカミは何事もなかったかの様に飴もどきの袋から一つ飴もどきを取り出して、あたしに差し出した。
「な、何よ……」
急に差し出されて、ましてやそれが飴なんて!あたしは思わずのけぞった。しかしアメノカミは至って平然としている。濃い化粧がされている顔を奇麗な笑みの形にして、一言言放つ。
『食え。しかしわたくしは厚化粧などではないぞ』
ぼそりと何かを付け加えられた様な気がしないでもないが、目の前に出されたのは色のついていない飴もどき。
ますます食べる気を失う。
「いや食べないし。あたしが飴嫌いなの知っててやってるでしょ。嫌がらせ?」
飴から顔をそらしながらとりあえず不平不満を漏らす。(説得力ねぇな
『そういう訳ではない。わたくしは全世界、はたまた全宇宙に数多く存在する飴嫌いをなくすため、“アメノセイ”とよばれる地球から六億光年くらい離れた所に存在する私の様な飴に宿る精霊達の住まう星から全宇宙の中でも特に飴嫌いの多いこの地球に配属されたエリート中のエリートなのだっ!!そのため決して絶対に確実に!!嫌がらせなどではないっ!!』
アメノカミは酷く長い台詞を息継ぎ一つせずに言いのけた。
……聞いてるこっちが苦しいよ、全く。
とりあえず、こいつら変な生物が住まうアメノセイなんて知ったこっっちゃないし。
つか、全宇宙って……そんな規模の大きい話だったんだね。
まぁ、どうでもいい。
「だから?あたしは飴を食べる気はないし、あんたと関わる気もないの!」
あたしはやや突っぱねるように小さなアメノカミに向かっていった。
アメノカミは少しだけその気迫に気圧されていたけど、すぐにニヤリと表情を変える。
……何か、すごく嫌な予感がする。
『まぁいい。お前がそこで拒否することなど既に予測済だ』
アメノカミは小さい子供がいたずらを思いついたときの様な……悪どい顔をこちらに向けて、あたしの後ろにあるリビングへと繋がる扉を見つめた。不思議に思い、あたしも振り返る。
扉の向こうからは、母さんが帰ってきたらしい「ただいま」と話し声が聞こえてくる。
母さんは家族の中では結構なまとも人だと思う。……思うというよりは思いたい。母さんはある条件で人柄ががらりと変わるんだ。そう、まるで二重人格みたいに。
アメノカミはあたしの目の前をフワフワと通り過ぎ、扉の前で宙に浮きながら仁王立ちした。
何がしたいのかさっぱりだったが、とりあえず自分に被害が加わらないよう、学習机の椅子にどかりと座る。
母さんは、兄貴と親父を見ると人が変わる。
まぁ…なんていうの?つまりその……ショタ アンド サディストだ。
兄貴はショタ属性の方々から見れば論外に値する長身だが…何故か母さんは兄貴も許容範囲らしい。(自分の息子だからかも知れないが)
あ、ほら、扉の向こうから「いっやーん☆グミちゃん今日も可愛いでちゅねぇ…!!あ、そんなグミちゃんのために新しいお洋服を買ってきたのんっ!着てみてぇ?」「おお、マイマミー、服を買ってくれるのは嬉しいがこのサイズでは俺の完璧なるボディが丸見えになってしまうよ…?」「あら、いやだっ!マミーってばグミちゃんのことばっかり考えてたからサイズ間違えちゃったわん。今すぐオーダーメイドするからまっててねぇん?」「ははは、マミー、恩に着るよ…!」なんて不思議な会話が繰り広げられている。
ちなみに兄貴のサイズはL、母さんが買ってくる服のサイズはたいてい130〜140(小学生サイズ)だ。着れるかっつの。
……でもまぁ、あたしに害がないのでそこはどうでも良いんだけれど。
母さんはモデルをやっている。兄貴のあの笑っちゃう様な(認めたくないけど)美貌は絶対的に母さん譲りだろう。母さんはアメリカ人とのハーフでもあるし。
あたしはそういうファッション雑誌とかを見ない方なので、よくはわからないが…クラスの女子達がよく母さんの名前を口に出すのは知っている。(ちなみに女性教師辺りの間の会話からは親父のブランドの名前がちらほらでてきたりする)
アメノカミは動かない。笑っているかどうかはあたしからは見えないが、きっと先ほど浮べた気持ち悪い笑顔のままで。
扉の向こうから激しい衝突音と何かが割れる音がした。あたしは頭に手を置いて、はぁと小さく溜め息をついて机に向かおうとする。
その時だった。
「アメちゃん?今糞親父にお茶煎れさせたから、一緒に和菓子食べよ?」
がちゃりと音がして、鍵を開けた母さんの声。
あたしは振り返る。
アメノカミが右手を上げたのがわかった。
母さんの左足が一歩部屋に入る。
アメノカミが右手をおろした。
その間、およそ2,34秒。
ボン、という音と同時に視界が真っ青になって、あたしは思わず目を瞑った。
しかし青い視界はすぐに止まり、あたしはゆっくりと目を開ける。
親父の泣き叫ぶ声が聞こえた。
……初めに見えたのは、あたしに向かって怖いくらい奇麗な笑みを向けたアメノカミだった。
次に、その向こうで兄貴が何かを呆然と見つめているのが見える。
なんだろう、何があったの。
あたしは視線を兄貴が見つめるものへと動かした。
「チョコォおおお!!!!!」
親父の叫び声が耳に急に入ってきて、あたしは体が動かないことを自覚した。
母さんが 固 ま っ て い る 。
青く、甘い香りを漂わせながら母さんは氷みたいなものになっていた。
アメノカミを見る。
『お前が素直にアメを食べないからだぞ?』
彼女は私の視線に気づき、私を見下すように言放った。
体が震えた。心が泣いているのがわかる。
「……にしたの」
『うん?』
「母さんになにしたのっ!!!!」
頬に何か冷たいものが走るのがわかった。
あれ?あたし、泣いてる?
アメノカミの歪んだ顔が、涙でもっと歪んで見えた。
彼女は言う。
『お前の母親なら、飴に変えてしまった。そのまま砕けばさぞや美味しい飴になるだろうに』
「戻して!!戻してよっ!母さんを!!」
ふわり、ふわりと浮かんでいるアメノカミをあたしは両手で捕まえ、目の前に持ってきて叫ぶ。胸が裂けそうだった。
親父の泣き叫ぶ声が耳に痛い。
『無理だ』
「―――っ」
一瞬の沈黙。
アメノカミが苦しそうでもなく、力強く握り過ぎて赤く変色しだしたあたしの手を優しく叩いた。途端に力が抜けて、あたしは思わず両手を離す。
アメノカミがまた宙に浮かぶ。ニヤリと笑ったままだ。
『出来ないことはない。お前が飴を食べさえすれば、この女は人間に戻してやろう』
あたしは飴となった母さんを見た。
飴というよりは飴細工に近い。あたしに話しかけていた穏やかな表情、髪の一本一本。母さんの長いまつげも、何もかも。
鮮明に形どられた『母さん』。あたしを見つめただ微笑むだけだった。
「………嫌だ」
母さんがまるでそう言えと言っているかのようで、口を吐いて言葉がでる。
別に飴を食べたら死ぬ訳じゃない。
別に飴を食べたら何が変わる訳でもない。
けど母さんの顔は…表情は、心なし、あたしに何かを訴えているように見えたから。
アメノカミは溜め息をつくと、また右手を上げた。
『ならばこうするまでだ』
空気を切る音がして、右手が下がる。またボン、という音と青い光みたいなのが視界を埋め尽くして、あたしはまた、目を瞑った。
今度も青い世界はすぐに終わる。
瞬きをして、目を開けた。
「アメ姫っ!アメ姫っ!」
兄貴の低い声があたしの耳を刺す。あたしはゆっくりと顔を上げた。
……そして沈黙。
今度は誰が飴になったんだろうと恐怖しながら顔を上げると、あたしに見えたのは一面青い世界だった。
違う。青い世界なんかじゃない。
そこは、母さんと同じく飴細工と化した「あたしの部屋」だったもの。
広げられた教科書。寝て起きたままのベッド。布団の皺。本棚の背表紙にはそれぞれの題名がきちんと記されているし、複雑な模様のゴミ箱はそっくりそのまま飴になっていた。
ゴミ箱の中でも、クズと一緒に親父のバニーガールの耳が飴になっていた。
『中々良いだろ?こういう部屋も』
寝ても起きても飴づくしになるぞ、と、アメノカミはニヤリと微笑んだ。
確かに、こんな部屋で生活はしたくない。
けれどどうしたんだろう。母さんのときみたいな喪失感は生まれなかった。
所詮は寝て勉強をするだけの部屋。人とは違う。むしろどこかほっとしている自分がいた。
こ れ 以 上 家 族 が 飴 に な ら な く て よ か っ た と。
じゃぁあたしは諦めるの?母さんを諦めるの?
唯一あたしの話しを真面目に聞いてくれて、あたしにだけは普通に接してくれた母さんを、あたしは見捨てるの?
他が変態だっていいじゃない。あたしに向けられた母さんの笑顔はまとも人のそれで、母さんは…母さんは………っ
『まだ足りないか?』
不吉な声が、した。
続けてまた音がする。青い、青い視界が舞い戻る。
あたしは目を両手で塞いだ。
青い世界の中でただ、あたしだけが暗闇の中。
「アメノッ………!!」
聞き慣れた声があたしのすぐ近くで聞こえて、はっとしてあたしは両手をどかした。あたしにおおいかぶさるようにして、親父があたしを必死の形相で見つめている。
……色は透明な青だった。目を見開く。
『おーおー、美しい家族愛よのぅ。雨乃、これでもお前は飴を食わんか?』
親父を通してアメノカミの声が聞こえ、あたしは親父を割れないようにそっとどかした。
唇を噛む。
「ふざけんなっ!そんなに人を飴にしたいならあたしを飴にすれば良いだろっ!!」
口を吐いてでた言葉はアメノカミにぶつかって、彼女は嬉しそうに微笑む。
『そうもいかない。お前は飴を食べなければならんしな』
また涙が流れた。
おかしい。おかしい。なんだか今日のあたしは、いや、「今日という日」はおかしい。
あたしは親父達が嫌いだった。
自分とは違う、(よく言って)個性溢れる親父達が。
一緒に歩くのも嫌だった。ましてや、こんな奴らと暮らしているなんて。
だけど違ってたのかも知れない。
- end -
2008/05/09
初めてまともにギャグを書いた……のか?
ううん、これはギャグと言えるのでしょうか。
相変わらず不思議なもの書くなぁと自分で自嘲しつつ(笑
中々満足の出来…(だと思いたい;)なのでまあまあ…かな?(なにそれ
プロット通りには仕上げましたが、雨乃ちゃんの初めの設定は少々違います。
男の子っぽく、というのもそのままですが、初めは「横原雨乃」ではなく「雨乃好美」だったんです。
家族全員の名前がお菓子なのは突然ひらめきました(笑
Harasu Uun