ベリーライクで愛してる



ベリーライクで愛してる

 彼が浴びてきたのは、賞賛や憧れの視線ばかりだった。
どんなものが相手でも、優しく明るく返すようにずっと努めてきた。
彼を嫌うものはいたが、それだって、劣等感から表れる幼稚な者達ばかりだった。
彼は常に、圧倒的に高い位置から、全て見下ろしてきたのだ。下から見上げてくる奴らの阿呆面を、表面で仲良しこよししながら、その内側で、媚びりながらよってくる奴らを嘲笑っていた。
彼は世界が自分のために回っていると思っていたし、また、そうでなくてはいけないと、本気で思っていた。
自分は、世界で一番の存在であり、誰かの下であるわけがない存在だった。
     
この女は一体なんなんだろう。この自分が好意を示してやっているのに断ったのも腹がたつが、問題は、この女が自分をどうやら見下しているらしいことだ。
     
自分を
     
この自分を
     
どす黒いなにかが血液に代わって体中に駆け巡るように、全身が急激に冷えて行く。そのくせ頭の奥のほうが、熱く熱くなった。
平静の仮面が剥がれ落ちる。
     
     
「この俺が好きだっていってるんだぞ!」
     
いつも優しい笑みを周りに向け、周囲の人間に常に好かれる、『謙虚な』彼からは想像もできない姿だ。
自分の思い通りに世界が動かない今にイラつく、エゴの塊たる彼の本性。今にも殺さんばかりの強烈な殺気を向ける。
しかし、向けられる本人は悠然と笑み、彼に向かう姿勢を崩さない。彼女の目には、彼への嘲りの色が、隠しもせずに写っていた。
「私は私を愛してくれる人は愛するわよ。それは愛と言うより、感謝と言ったほうが正しいけれど。そうねベリーライクで愛してる、てとこかしら。」
「じゃあ、なんでだ。俺はお前を好きだって言ってやってんだぞ。」
彼女は鼻をふんと一息ならし答えた。
「戯わ言抜かすんじゃないわよ。あなたが私を愛している?自分でそうじゃないってわかってるんでしょう?自己満足のために私に好意もどきを寄せるのはやめてちょうだい。」
「なっ…」
「あなたは、私に好意なんて抱いていないわ、あなたは、私を愛し、その結果愛されることで、自分が世界中に愛されていると錯覚したいだけよ。」
「錯覚…だと。」
「そう。」
     
ふと、彼女の目に嘲り以外が混じった。それは、憐れみ。それも、上に立つ者が下の者の無知を悲しむ憐れみだった。
     
「錯覚。幻、幻想、触れれば消えてしまう。いえ、少し目を凝らせばすぐにわかってしまう儚い夢。」
「あなたは、自分が世界に愛されていると思っているようだけれど、それはとんでもない思い違いよ。
世界はあなたを愛してなんかいない。あぁ、これだと語弊が生じるわね。安心して、愛されていないとは言っても、嫌われているわけではないから。」
彼女が言葉を紡ぐ度に苛立ちがつのる。しかし同時に、なにか別の感情が流れ込むのを感じた。
「あなたは、世界中に愛される者ではなく、世界を愛する『世界の一部』よ。あなたは愛される側ではないの。」
いや、これは、膨れ上がっているのではない。寧ろその逆。抜け落ちているのだ。
「世界に愛される為には、世界の全てに平等でなければいけないの。」
それは、世界からの愛を求め続け過ぎて、いつしか自分はそうでなければいけないと思い込んでいってしまった『意思』。
「だって、世界とは、結局主観だから。」
「主観…」
何かが抜け落ちたような、意思の薄まった顔で彼は呟く。
「自分の世界を構成するのは、自分。親でも友人でもなく、自分。だから、『世界中に愛される』ということは、『世界中の誰よりも自分を愛する』ということなの。」
支えていた根幹が根こそぎ抜かれて、酷く不安定になる。
「勿論、あなたは自分を愛していたのでしょうね。その、愛ゆえの見栄で、私に『愛してる』なんていったぐらいだもの。」
彼女の言葉は、彼を容赦なく揺さぶる。
「でも、それは、あなたが世界中に愛されるということが、どういうモノか、わかっていない証拠。」
揺れの幅は広がっていく。限界まで、僅かしかない。
     
「あなたはもう」
     
揺れは
     
「『あなたの世界に一番愛されている人間』ではないわ。」
     
揺れは、限界を超えた。
     
     
「お前に……から」
背を向けて去ろうとして、止まった。振り向きはしない。声だけ返した。
「何」
意思の抜け落ちた、しかし確実に不穏な何かを混ぜた声が背中にかかる。
「お前を愛したから、お前に、俺が愛してるといったから、俺は世界に愛されなくなったのか。」
「そうよ。」
「お前は俺を愛していないんだな。」
「えぇ。あたしは、あなたと違ってちゃんと自分を愛しているから、世界に愛されるために、自分を唯一の特別にしているから。あなたに特定の愛なんか持ってない。
……さっき言ったように、『ベリーライク』で愛してはいるけれど。」
     
「……そうか。」
     
その確認の呟きに、彼女はとてつもない悪寒を感じた。振り向こうとした瞬間
     
後ろから、きつく首を締められた。
     
「――っ!!」
視界に僅かに映る、自分の首を掴む手。その持ち主から、何も感じさせない声が上がる。
「つまり、お前がいなければ、俺はまた、『俺の世界での一番』になれるわけか。」
血が通らないせいで、音が遠く聞こえる。暴れて床を蹴る音も、水の中で聞いているようだ。
それなのに、彼の声だけは酷く鮮明。
     
意識が遠くなる
     
目の前がぼやけて暗くなる
     
「―――」
     
彼の顔は見えないのに
     
彼の顔が大きく笑っているのがワカッタ。
     
     
仰向けに倒れた彼女の両の頬に手を添えて、笑みを深める。
反応は無い。体温も感じられない。
そんな彼女が、限りなく愛しかった。そして、自分を取り巻く世界の全てを、同じぐらい愛せると思った。
  
そう思えるようにさせてくれた彼女に、深い深い感謝を込めて
     
     
     
「愛してる 愛してる 愛してる ……ベリーライクで、愛してる。」

- end -

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わぁい、貰った貰った♪
玲社様より素敵な相互記念小説もらいましたっ!もう返さないわよ(笑
いやぁ、主人公良いですね…ッ!でもそんな彼を軽くあしらった彼女も大好きです(笑
私が歪んだ恋物語を演じたがために、何となく恋愛要素入れさせてしまった様で申し訳ない;
これは後生大事にとって、きちんと墓まで持っていきますねv(逆にキモイ

ではでは、本当にありがとうございました…ッ!



追記:こちらの都合上背景画像、文字サイズなど変更しております。ご了承ください。

Harasu Uun