タイトル未定



タイトル未定

 友人のリンが、当番の務めを終えて、地上の頂から戻ってきた。リンは今回の『ヒト』の世界に降る雪を調節する当番で、その世界『地上』でもっとも高い所に出ていたのだ。
     

ミリスが今いる『ヒト』の世界と彼女らの世界の狭間は、普段は誰も近づかない、その為とても静かな場所である。忌み嫌われているというわけではなく、ただよっても意味がないからだ。
普段静かなそこも、今は相変わらず静かでありつつも不思議なにぎやかさがある。
ミリスのように、当番から帰ってくる友人や家族を待つものや、新たに当番に就き、『ヒト』の世界に向かうものが多々いるからだ。
     

帰ってきたリンはかなり疲れているようだった。
身だしなみにも気をやる余裕がないのか、いつもはぴしりとのびている長く鮮やかな羽飾りも、よれてぼろぼろになっている。
その様子から仕事はかなり辛かったことが伺えるが、あえて、ミリスは問いかけて見る。
「リン、今年の雪当番お疲れ様。どうだった?」

「最悪。だって、あいつら我侭なんだもん。
『彼氏とスキーに行くから、ゲレンデにパウダースノーを積もらして下さい』
なんて、何よ!?パウダースノーって!!んなこと知ったこっちゃないってのよ!本当、あいつらの趣味って訳分かんない。雪の上を変な板乗って落下して、何が楽しいってのよ。」

「そんなこと言っちゃ駄目だよ。その要望に答えて流れを変えるのが、私たちの仕事なんだから。」

ばつが悪そうに「そんなこと分かってるけど……」と口を尖らせながら言って、リンはミリスに「そっちは?」と聞いてきた。
「ミリスは次の風当番でしょ?」

「うん。何処か一箇所に固まらないようにしないと。主様に怒られちゃう。」

「前回の当番だった奴、海に風当てすぎて津波起こした。あいつあれからどうなったの?」

「ただ津波になっただけならよかったんだけど、それが『ヒト』のたくさんいる陸に当たっちゃたらしいの。それで何人も死んじゃってね。主様凄く怒ってた。」

ミリスが言うとリンは頭につけた羽飾りをいじりながら言った。

「そりゃそうよ、よりによって、もうすぐお勤めが皆交代するっていう、凄く気が和んでた時にあんなミスしちゃったんだもん。そりゃあの温厚な主様だって怒るわよ。」

「うん、主様、ずっと機嫌悪そうだったもん。だから今回は何もないようにしないと。」

ミリスが少し緊張した面持ちで言うと、リンは同情の視線をよこした。

「あんたも、風当番になるなんて災難だよね、雲当番とおんなじくらい大変な仕事じゃない。あたしみたいに雪当番くらいなら良かったのに。」

「しょうがないよ、当番に当てられちゃったものはしょうがないもん。」

「へぇ……、真面目だことで。ま、とりあえずは頑張りなよ。あたしは家に帰るから。」

「うん」

「じゃあ、また次の当番交代の時にね。」

「うん、またね」

リンが去っても、そこはまだ騒がしかった。
当番についている間、自分は任せられた風に集中しなければいけない。気を緩めれば、『ヒト』の世界に多大な被害を作ってしまうのだから。
集中している間、一切の音を聞いている余裕はないだろう。
今の周りの音も、暫くは聞けなくなるのだ。
当番を終えて戻ってきた時、この音は、自分にどんな気分をもたらしてくれるだろう。
リンにどんな気分か聞いて置けばよかったなと。ミリスは思った。
そして少し笑って、『ヒト』の世界との狭間を、越えた。
     

「わぁ……!」

狭間を越えた瞬間見えたのは、水に反射するたくさんの光。まるで水そのものが光り輝いているように美しかった。自然な賛嘆が口を開かせた。
その水に、早速自分の意思で風を起こしてみる。
それは小さな波となって、遠く広がっていった。
     

これから、この世界の風を管理していかなければいけない。この『ヒト』がいる世界が、平穏と騒動を同等にもてるように、自分の意識を最大限発揮しなければいけない。
     

自分の仕事の大きさ重さを改めて自覚し、それでも、この世界に自分の思うがままに風を起こすことへの楽しみに、ミリスは震えた。

- end -

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奪ってきました(笑顔
朱鷺玲社様の運営する「暗黒惑星の図書館」で正月限定フリー小説を配布しておられたので、思わずぼち、っと(笑
世界観が素敵です。
スキーに対する発想とか、ああ、恋人に対する文句なんかは玲社さんらしいですね(何それ
でも「かぜ」や「ゆき」を管理するという玲社さんの発想は素晴らしいと思います。
お正月にこんな素敵な正月、ありがとうございました☆



追記:こちらの都合上背景画像、文字サイズなど変更しております。ご了承ください。

Harasu Uun